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第1話

「お前ももう18歳だ。そろそろ“番”を持ってもいい頃だろう」 久しぶりに父に本家の方に呼び出されたと思ったら、アルファオークションへの誘いだった。この手の誘いを陽太(ひなた)は断ってきたが、こう言われてしまえば断れなかった。 伊勢崎(いせざき)家。日本でも有名なオメガの名家でもある。しかも、現当主である勘助(かんすけ)が立ち上げた会社が大成功を納め、今ではそっちの方面でも有名なのである。 そんな伊勢崎家の絶対的存在である勘助の誘いを、今までは年齢を理由に断っていた。しかし、陽太ももう18歳。番を作ってもいい年齢なのである。 「どうだ、陽太。行くだろう」 「……………行きます」 「よく言った。では、明後日がアルファオークションの日だ。金のことは心配するな。俺が全額払うからな。何せ、お前の大切な番を選ぶんだ。いいアルファを選んでやる」 「はい、」 本当は、番なんていらない。陽太はそう言いたいが、絶対的支配者である勘助を目の前にして言えるわけがなかった。 オメガは、当たり前のように家畜としてアルファを買う。子を作るための道具として。アルファの人権など、一切関係なしに。 陽太はそれが嫌なのだ。幼い頃から、陽太にとってもう1人の父であるアルファを勘助は召し使いのようにして扱っていた。 陽太だけが知っている。アルファの父が、勘助に隠れた場所で泣いていたことを。 自分は父のようにはなりたくない。 だからこそ、陽太は番は要らない。自分にはアルファは必要ないと物心ついた頃から思っていた。 しかし、自分は伊勢崎家の血を継ぐたった1人の存在だということも理解している。伊勢崎家を未来にも残すには、自分が子を孕むしかないということも。 「分かってはいるけど、俺には無理だよ父さん」 今は亡くなってこの世にはいないアルファの父の写真を抱き締めながら、陽太は眠りについた。

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