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第12話

「川島さん、ありがとうございます! ちょっとした甘いモノのレシピだけ聞こうと思ったのに教えてくださるなんて」 「梓馬君はみんなのアイドルみたいなもんだからな。それに、無碍にしたら罰当たりというか、こんな可愛い笑顔で頼まれたら私だって断れやせんよ。はっはっは。スイートポテト今日作っても傷んでしまうだけって――なるほど……」 「??」  思わずキョトンとしてしまう僕。一人納得している川島さんは頭をなでてくれる。大きな手で。ぅー同じ男の人でも時雨様に撫でられたいなぁなどと思っていたのだけれど。 「まずは、主にって思っているんだろう? 執事の見本だね。味も形も太鼓判を推して挙げるよ。ちょっと焦げ目が付くと美味しそうなんだけどね」 「なるほどって、どうして時雨様にお渡しするのがわかるんですかっ!?」 「ハッハッハなんでだろうな。梓馬君は主思いのいい子なのは知ってるんだよ。愛されてるのも周知の事実なのだからね」  そう言われると嫌な気分はしないけど、『そんなに顔に出てるかな? 僕』と気にしてしまうじゃないか。  廊下をいそいそと歩く僕。そう、時雨様の大好きなストロベリーのフレーバーティを淹れてスイートポテトも美味しく頂いて貰おうと思っているのだ。お盆に乗せるとこぼさないようにと慎重に運び時雨様の元へと気持ちだけは急いで持っていくと、時雨様はお仕事をしている所だった。 「梓馬?」 「あ、いえ、なんでもないんです。その、お仕事の休憩でもいかがかなぁって思って……」 「ああ、そうだね。そうさせてもらおう。ああ、ストロベリーティか、いいね。それにああ、川島が作ったスイートポテトだね。一緒にいただこうかおいで」  するとなんとポンポンとご自分の膝を叩いて……。ムム。 「え!? ぼ、僕は子供じゃありません! 椅子持ってきます」  変に誤解をしてしまった僕。動揺しながらも、ちょっぴりお膝もいいなぁと思ってしまった。でも、『お子様じゃないんだからっ!』と、そんな邪念は捨て椅子を持ってこようとすると、 「梓馬冗談だよ。へそ曲げないの。ここじゃなんだから寝室の方のテーブルでいただこう?」 「むぅ……わかりました。本当に僕子供じゃないんですからね?」  くすりと笑いながら『わかっているよ?』と言う時雨様に、耳まで真っ赤になる僕。  本当に僕、期待してないんですからね! 「流石、梓馬だね。ストロベリーティー美味しいよ。このスイートポテトはなんだかいつもより甘さが少し多めというか……うーん。川島らしくないな、ほら梓馬も食べてみたらわかると思うよ」 「あ、実は、そのスイートポテト僕が……作りました。美味しくなかったですか……」  やっぱり味でわかっちゃうかぁ。初めてお菓子なんて作ったけど、難しいなぁ。まぁ、時雨様に作るんだったら完璧を求めるけど、あげるの晴人だしいいか。などと考えていると。 「ほうほう、初めてだね。私に手作りしてくれたのは。これはこれで美味しいよ。甘いのが好きな私としてはこれくらいでもすごく美味しく感じるし、川島と比べてはいけないよ」 「あ、ありがとうございます! 時雨様お疲れじゃないかなって思って少し甘めに焼いてみました。焦げ目と言われてまだまだだなぁって。はむはむ。もぐもぐ……確かに川島さんが作ったスイートポテトのほうが上品というか。美味しいですね……悔しい……むぅ」  なるほどなぁ。作る人によって変わっちゃうんだなぁ。当たり前だけど。 「私の為に作ってくれたのかい? もしかして……」 「あ、晴人様に明日プレゼントしようと思って作ったんですが、その……初めて作ったものをまずはご主人様に……と。召し上がって頂きたくて。ごめんなさい。今度はもっと美味しいモノ作ります。」 「料理の天才じゃないんだからそこまで落ち込むことじゃないだろう? 梓馬の心が嬉しかったな。それに、私相手に渡すとしたらもっと味を追求したって言いたいんじゃないかい?」  図星。 「……そうですね。もっと頑張ったと思います」  少しはにかんだ笑顔を見せる僕に、『よしよし』と頭をなでてくれる時雨様。それだけで僕は嬉しい。次食べていただく時はもっと美味しく作ろうと思っていた。  時雨様の部屋はいつも片付いているなぁと思いながら周りを見渡すともう、時間は十五時半を指していた。

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