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第1話

高校最後のハロウィンの日の放課後… 人気が少ない校舎… 夕日に染められた教室… 肩を強く掴まれた後、壁に押し付けられ、俺、南春馬(みなみはるま)はピンチを迎えていた。 ーーードンッ!! 左前腕部を激しく教室の壁に打ち付け、俺の逃げ場を奪ったのは内田翔(うちだかける)。 「…か、壁ドン?」 衝撃に何度か瞬きをした後、俺と同じ学校指定の制服を着た、俺より10cm程身長が高い翔を見上げて小首を傾げた。 「それ。」 「え、なぜに?」 「逃がさない為。………つか春馬、一ついいか?」 「はい。」 「ココ、ドキドキするとこなんだけど?」 「あ、あぁ、すっげドキドキしてる。」 あまりの驚きに胸が高鳴る。普通、壁ドンなんてされたら違う意味で胸が高鳴るんだろうが、それは女に限った話だ。 「そのドキドキじゃない!」 かなり本気で怒鳴られて、ビクッと肩を揺らした。翔とは、物心ついた頃からの幼なじみだ。俺達は、長い間幼なじみを拗らせていたが、先日ようやく恋人になったばかりだ。 「…で、コレいつまで続くわけ?早く帰ろうぜ。」 「ダメ。」 翔の訳が分からない返答にイライラが募る。 「は?…なんなの、お前。」 「トリック オア トリート…」 その言葉にピンと来た。 「あぁ、菓子が欲しいのか。生憎、なにも持ってない。帰りに買ってやるから、退けって。」 「逃がさないって言ったろ?」 「お前なぁ、いい加減にしろよ。キレんぞ。」 青筋でも浮かびそうな勢いだ。 「なぁ春馬。今日なんの日か知ってるか?」 「だから、ハロウィンだろ。」 「そ。」 「つか、菓子が欲しいなら他あたれって。」 「…俺が欲しいのは菓子じゃない。」 翔の真剣な目を初めて見た。 今まで見た事がない顔に、胸が高鳴る。 さっきのとは違う… 「じゃぁ…なんなんだよ…」 「トリック オア ラブ…好きって言わないとイタズラするぞ。」 「随分なこじつけだなぁ、おい。」 「春馬、俺本気…」 (…知ってる。) 春馬が本気なのは目を見てれば分かる。 俺達は確かに恋人同士だが、俺はまだ翔に一度も好きだと言った事がない。 好きだと言われて、"俺も" と答えた。 それだけだ。 「…」 「俺は、春馬が好きだ。春馬はどうなんだ?」 「…俺も…」 今更小っ恥ずかしくて、好きだなんて言えない。 「ちゃんと聞かせろ…」 「い、いいだろ、恋人なんだし…」 「俺は、言葉が欲しい。」 「…」 「春馬、今ココで俺にイタズラされるか、素直に好きって言うか、どっちか選べ。」 「二択しかないのか?」 「ない。」 どちらを選んでも俺に特はない。 翔ばかり特をする選択肢だ。

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