13 / 30
廣瀬SIDE 1
俺の両親はβ同士で、恋愛結婚をした。
父の家は由緒正しいαの家系で、肩身の狭い想いをしていた両親を少しでも救うべく、俺は様々な事に全力を注いだ。
スタミナ・体力・筋肉を付ける為に毎日欠かさずトレーニングをし、色々な運動をして身体作りを。
様々な辞書・教科書・参考書・資料等を図書館やネットで調べて学習し。
独学だけでは足りない所は祖父に頼んで教師を付けて貰い学んだ。
たとえα以外眼中にない人間でも、おじいちゃんという生き物は孫には弱い。
孫に甘えられたら何でも与えてくれる。
使える物は何でも使う。
祖父はお金も権力も有り余る位持っている。
遠慮なく甘えさせて貰った。
お陰で俺は中学に上がる頃には大卒並みの学力と語学力、大人と同じ位の体力と運動能力を身に付ける事が出来た。
尚且つ第二次性徴期でαになってからは、優秀なαの血のお陰か今迄以上に様々な事が出来る様になった。
それにより変わったのは、我が家での両親の評価だった。
今迄公の場に出させて貰えなかったし、他の親戚から少し冷遇されていたが、優秀なαを生み出した親として高評価を与えられ、他のαと同様に敬われる存在に格上げされた。
何だか調子が良すぎる気もするが、肩身の狭い想いをしなくて良くなったんだ。
努力が認められて嬉しくなった。
保健体育の授業でオメガバースの事を習った。
第二次性徴期で訪れるもう1つの性別。
α・β・Ω。
俺はαだったが、αには運命の番が現れるらしい。
らしいというのは、ソレは絶対ではないからだ。
生きている間に現れるかも逢えるのかも分からない。
100%結ばれるのかさえも定かではない。
祖父に聞いたが、代々続く我がαの家系内でさえ運命の番同士で結婚した人は数える位しか居ない。
一応皆探し求めたらしいのだが、出逢う事さえなかったらしい。
つまり運命の番はある意味ファンタジーみたいな物。
逢えたらラッキーみたいな感じなのだろう。
逢ってみたいが、余り過度に期待はし過ぎないでおこう。
オメガバースの資料を自室で読みながらそう心に決めた。
誰に恋するワケでもなく、高校生になった。
Ωには発情期があり、その期間中は通常よりも大量のフェロモンを放出する。
それはαだけでなくβさえ誘惑するのだが、俺は性的に不能なのか全く反応する事はなかった。
高校にもなると、殆どの学生は恋愛をする。
友人達も恋人や好きな人が居て、毎日幸せそうにその人の事を語った。
告白も沢山された。
だが、誰にも心が揺さぶられない俺は断り続け、恋愛感情が全く分からないまま日々を過ごしていた。
そんなある日不思議な匂いを感じた。
初めて嗅ぐ甘い花の様な不思議な香り。
フラフラ誘われる様に足が動いた。
辿り着いたのは駅近くの本屋。
何かを買いたいワケでもないのに店に入るのは初めてだ。
何が俺を呼んでいるのだろうか。
思考能力が低下したのか、よく頭が働かない。
ワケが分からないまま新刊コーナーに足が向かった。
其処に着いた瞬間、身体中を襲った甘く痺れる濃厚な香り。
誰かが本に手を伸ばしている。
「見付けた」
何故だか俺はそうするのが当たり前かの様にその見知らぬ人の手を掴んだ。
その瞬間、流れたのは信じられない位甘い電流。
ドクドク全身の血が沸騰しそうな位熱い。
どうしてだろう。
この手を離してはいけない気がする。
手に入れたい。
自分の物にしたい。
誰にも渡したくない。
有り得ない位凶暴な支配欲が俺を襲う。
初めての感情に驚き恐怖を感じたが、怖がらせてはいけない。
悟らせない様出来るだけ穏やかに微笑みながら自己紹介をし、その場を去った。
俺の心を乱した人は北原星流 。
白く華奢な身体・金髪・グレーの瞳の綺麗な顔をした1つ年下の男の子だった。
どうやら儚く綺麗で王子様みたいだと女子に人気らしいが、俺には物凄く可愛らしく見える。
他の人からはしない痺れる様な甘い香りと電流。
視界に入るだけで感じる幸せ。
嗚呼、なんて俺は幸運なのか。
見付けた。
俺は運命の番に出逢う事が出来たのだ。
星流からも自分と同様に俺から甘い香りと電流を感じると聞き、確信した。
だが、人生そんなに甘くない。
まさか星流に好きな人が居るなんて。
それで星流を苦しめる事になるなんて。
この時の俺は、考えもしなかったんだ。
ともだちにシェアしよう!