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第3話

「リカルド、どうした、浮かない顔だな」 「いつもこんな顔だよ」 「そりゃお前がご機嫌だったことはあまりないが、そこまで仏頂面でもなかったと思っていたがな」  歩き回っている給仕から今度はワイングラスを受け取って、ソファに座ったミケーレがリカルドの顔を覗き込む。  リカルドの肩まで届く長めの髪がゆるやかなウェーブを描いている。華やかで上品な顔立ちは王子様とあだ名されるのも無理はない。ハニーブラウンの瞳が茶色のまつ毛にけぶっている。  アンニュイな表情が似合う男は肩をすくめた。 「下らない事が多くてうんざりしてるだけだよ」 「それは然り。この世のことなんておよそすべてが下らない」  ミケーレの芝居がかった言い様に、リカルドは疲れたようなため息で答えた。その顎をミケーレがすくいあげて意味ありげに囁く。 「いっそ恋でもすればいい」 「バカバカしい。恋くらいでこの鬱屈がどうにかなるとでも?」 「なるかもしれないだろ? ほら、こっちを見てるぞ」  どこかで見た顔のドレス姿の女がグラス片手に軽く首を傾げて微笑む。  モデルか女優か、きれいな顔にきれいな体。 「ガキと女に興味はない」 「やっぱり男のほうがいいのか?」 「今さら訊くのか」 「いや、それならあそこはどうだ?」 「…やめておく。利害関係があるのは面倒だ」  ミケーレが指した先には、数人の美しい男たちが立って談笑している。  家柄も容姿も申し分ない。中には過去、何度か寝た男たちもいる。その場限りで終わった者もいれば、短い間の恋人ごっこをした者もいた。  どうしようか…と眺めてみたものの、いずれにしても興が乗らない。  でもまったく違うタイプの相手がいれば、この退屈な日常も少しは変わるだろうか…。  会場を見るともなく視線を巡らせていたリカルドはふと、キッチンカウンターの向こうに立つ男と目が合った。まっすぐに目が合って、彼ははっとしたように目を瞬いた。  西洋料理のシェフ達とは違う白い上着に短い帽子。  ひどく整った顔立ちの男だった。端正な顔をした黒い瞳に短い黒髪のオリエンタルビューティだ。  彼は目をそらさずにほんの少し口角を上げて微笑んだ。  その表情が気を引いた。 「なあミケーレ。彼、どう思う?」 「は? あのシェフか? ……きれいな顔だな」  言外にお前好みだと言われ苦笑した。

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