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第28話
「今夜、会える?」
加賀美から連絡が来たのは初めてだった。
スケジュールを確かめる。
「ちょっと待って。…うん、7時以降なら」
「OK。7時半に迎えに行く」
それだけ言って電話は切れた。
不思議に思ったが、会議が始まると秘書に呼ばれ、リカルドは書類を手に立ち上がった。また何かいたずらを思いついたんだろうか。
気まぐれな加賀美といるのは楽しい。好きなように振る舞って言いたいことをずばずば言うところが気持ちがいい。
プライドが高く見栄の固まりのような社交界の友人とも言えない顔見知りたちと過ごすよりずっと楽しくてリラックスする。
「チャオ、リカルド。乗って」
タクシーで迎えに来た加賀美は繁華街へ向かう。
「たまには庶民のデートしようよ」
そう言ってカジュアルショップにリカルドを連れこんだ。
いまだかつて入ったことのない派手なディスプレイの店で、戸惑うリカルドに数枚の服を渡した。
「はい、これ。好きな組合せで着てみて」
それだけ言って、カーテンを閉めてしまう。
人ひとりがようやく動けるかどうかという狭い試着室で、リカルドは目を丸くしながら渡された衣類を広げてみた。派手なシャツとパンツに目まいがしそうだ。
外との仕切りは薄っぺらいカーテン一枚きりで、外で加賀美が店員と会話しているのが聞こえた。
「素敵な髪だね、さらさらだ」
「勝手に触るな」
どこか笑いを含んだ声。街中で自分以外の誰かと話をしている場面を見たのは(見えてないけど)初めてなので、何だか新鮮だった。
「ごめんごめん、君があんまりきれいだから、ね?」
「べたべたするなよ」
「わかったよ。日本人?」
「ああ」
「日本大好きだよ。きれいでカワイイ、最高の国だよね!」
軽い男だな、店員なら仕事をしろ。
「行ったことある?」
「ないよ。でも君が案内してくれるなら今すぐ行くよ」
臆面もない店員の言葉に加賀美がくすくす笑い出す。
アキトもそこで笑ってる場合か?
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