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第2話
社に戻ってからも、先ほど見た姿が脳裏にちらつき、イライラした。
一体何をしに来たんだ。
もう、地元に帰ることは無いだろうと言っていたじゃないか。
もしかして叔父か叔母に何かあったのか?
金曜の夜だから飲みに行こうと声を掛けてきた上司や同僚の誘いを断って、一人暮らしのマンションに歩いて帰りながら、実家に電話を掛けた。
「珍しいこともあるのね」と嬉しさを滲ませる母の声に若干の後ろめたさを感じながら、取りに行くものがあるから今夜からそっちへ帰ると伝える。
「あらあら、急いで何か作らなくちゃ」と更にはしゃぐ声に、悪いが俺が欲しいのは飯じゃなくて情報だと心の内で呟き、そのことに自分で驚いた。
実家に向かう車のハンドルを握りながら、俺は一体何をしているんだと何度目かの自問をする。
あの憎い男のことを今更調べてどうしようって言うんだ。きっといいことなんか無い。むしろ嫌な思いをするに決まっている。
俺達はとっくに終わっている。
俺はとっくにあの男に棄てられている。
「ねえねえ、郵便ポストのところの時田さん、浩ちゃんとこの会社で建て替えるらしいわよ、知ってる?」
母親がいそいそとグラスにビールを注いでくれながら、さっそく話し始める。
「ああ、俺が担当なんだ。実は今日、打ち合わせで時田さんのところへ行ったんだ」
「あら、まあ、そうなの!」
弾みがついたように、母親がいつもの「あなたの小学校の同級生の○○さんのお祖母さんが」というようなご近所情報を姦しく話し始めた。
いつもなら適当に相槌を打つふりをしながら右から左へと聞き流すのだが、今日は欲しい情報が混じっていないか密かに聞き耳をたてる。
本当は早く自室に戻って窓から様子を窺いたいところだが、もうこの時間なら出歩くところも無いような住宅地だ、情報収集を優先しよう。
だが、結局最後まで知りたかった日崎家の話も純太のことも母の口からは語られることはなかった。
部屋の窓を開け、風呂上がりの火照る体を3月の夜の空気で冷ます。
ほんの100メートルほど先にあるまだ明かりの点いた日崎家を見やる。おそらくあの中に純はいる。母親が知らないようなら、地元に戻って来て暮らしているというわけではないのか。たまたま用があったのか。
何の計画も無く実家へ帰って来たが、この土日を使ってどうしようかとベッドにゴロンと横になった。
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