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第3話  <第2章>

「ねえねえ、今日、日崎さんの奥さんから聞いたんだけどね…」 あれは小5の、夏休みに入ったばかりの頃。 いつもの様に夕飯時に母親がご近所話を始めた。 「旦那さんのお姉さん夫婦が交通事故でいっぺんに亡くなったんですって!それで、その中学生の息子を日崎さんのところで引き取ることになったんですって!うちにも小さい子供が二人いるのにっておっしゃってたけど、ほら、あそこお姑さんがおられるからねえ」 それからしばらくして、近所で見慣れないブレザーの制服を着たお兄さんを見掛けた。男子用の制服でなければ女の子と間違えたかもしれない。 テレビでよく見る大人数の女性アイドルグループの中にいてもおかしくなさそうな色白な細面にぱっちりとした目と赤い唇。 それが日崎家に引き取られた松野純太だった。 やがて友達や弟と近所の公園で遊んでいると、純太が一人でブランコで揺れていたり木陰のベンチで漫画を読んでいるのをよく見かけるようになった。 ある日、一緒に遊んでいた友達が習い事があると途中で帰ってしまい一人になった。ブランコを見やると、いつもの様に純太が一人で所在なさげに揺れている。 「ねえ、一緒に遊ばない?」 純太はきょろきょろと辺りを見回してから「え、俺?」と自分を指さした。 「うん。友達帰っちゃって相手がいないんだ」 小学生のガキなんかと遊べるかって言われるかな? だが、純太はにこっと笑うと「いいよ」と返してきた。 それから暫く二人でサッカーボールを蹴り合ったり、テニスボールを使ってキャッチボールをして遊んだ。 純太はキャッチボールが上手かった。小学生相手だから気を遣ってくれているのか、ちゃんと取りやすいところに投げてくれる。 「純太君、さすが中学生、上手いね」 褒めたつもりだったのに、純太は急に顔をくしゃりと顰め、その場にしゃがみこんでしまった。 慌てて駆け寄って「え、どうしたの?」と声を掛けたが返事は無い。だが、俯いた顔の下の土にぽつぽつと茶色いシミが出来ていくのを見て、彼が泣いているのだと気が付いた。 「…よく…父さんとキャッチボール…したから」 そうだ。彼は一度に両親を亡くしたばかりだった。こんな時はなんて言ってあげればいいのか。懸命に考えたが気の利いた台詞は浮かばない。 「純太君、これからも一緒に遊ぼうな」 子供の精一杯の声掛けに、彼は俯いたまま小さく頷いた。

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