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第5話

 鍵をかけた部屋で生徒と二人、何をしているというのだろうか。「僕の会長と密室で二人きりなんてあり得ない」そんなことは許されるはずはないと田中は腹を立てた。  「会長は僕のものですから」  画面の中の愛しい人にそう告げると、写真をフォルダーにまとめパスワードをかけた。万が一にもこの画像を流出させるさわけにはいかない。始業を知らせるベルが鳴り始める、保健室へと駆け戻り苦しい呼吸を捕まえながらドアの真横の壁に背中をつけて床にしゃがみこんた。ベルが鳴り終わり静粛が訪れた瞬間に保健室のドアが開いた。振り返り養護教諭の服部に声をかける大河内がそこにはいた。  「先生、いつもありがとうございます」  「ああ、早く戻りなさい遅れるよ」  ひらひらと手を振る養護教諭に一礼すると大河内は扉をそっと閉じた。その足首をがっつりと田中はつかんだ。  「なっ、何!?誰?え?田中、何を」  「か、かかっ、かいちょっ、こっこそ、な、な、なにをして」  「放せ!一体何をしていんるだ」  外での会話が保健室の中まで響いたのだろうか、がらりと扉が開くと服部が顔をのぞかせた。  「授業は始まったぞ、何を騒いでいるんだ」  「先生こそ僕の会長に、一体何を!」  「落ち着け、どうしたんだ?大河内どういうことだ」  職員室の扉が開くと教頭が顔を険しい顔を見せた。  「どうした?」  「すみません、こいつらが騒いでいて。二人ともとりあえず中に入れ」  保健室の中へ三人で戻る、置かれている三台のベッドのうちひとつの掛け布団だけが乱れていることに田中は気がついた。  「教師のくせに!一体、何を」  「大河内、何の話だ?」  「先生、すみません。田中っ、何を言っているんだ」  「か、かいちょ、がっ、こっ、こんなおっさんと」  大河内に声をかける時だけはどうしても言葉がスムーズに出てこない。レンズ越しの大河内にはあれだけはっきりと話すことができるのにと悔しくなる。  「何の話だ?」  「ここで会長と何をしていたのですか?」  大河内に詰め寄れないなら養護教諭に問い正せばいいのだと噛みつかんばかりの勢いで詰め寄った。  「答えろよ、僕の会長に何をしたんだ!」  「田中、先生に何を言っているんだ」  「ちょっと待て、俺はおまえたちの痴話喧嘩に巻き込まれているのか?大河内、こいつはおまえの彼氏なのか?」  その瞬間に田中の顔が赤面した。  「かっ、かっれぇ!?って、そんな」  まるで舌が痺れたように言葉が上手く紡げなくなってしまう。  「先生!違います。こいつは単なるストーカーです!田中、何故赤面するんだよ。何もじもじし始めているんだ」  「はいはい、もう分かったから。痴話喧嘩は放課後に二人でやってくれ。俺を巻き込むな」  「先生、いい人ですね。ありがとうございます」  田中は自分の両手で包み込むように養護教諭の手をとると潤んだ瞳で見上げた。  「先生!違います。勘違いしないでください!」  「大河内、必要以上にムキになるな。こっちが恥ずかしい」  「かっ、かひちょっ、う、うんめいでっですっ」  これで公認の恋人になれたのだと浮かれて当初の目的をすっかり忘れ、促されるままに教室へ戻ってしまった。

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