12 / 12

第12話

4月下旬、糺は郵便受けに投函された封筒を開けた。 『好きな女が出来た。男同士なんて一時の気の迷いだった。お前とは二度と会わない』 ごく簡単な手紙と自分が涼に渡した合鍵が入っていた。 糺は、手紙と鍵を見つめ暫く呆然と立っていた。その後、鍵を叩きつけ、手紙を破り、顔を覆って床に突伏した。 糺が涼に愛想を尽かし誰か別の人と幸せになるように、なるべく手酷い別れの言葉を選んだ。 母と弟を泣かす事になっても一緒に生きたいと願った糺を、危険に晒せない。 武範に、せめてセックスは糺に鍵を返してからと頼んだ。夢を見せてくれた鍵を封筒に入れる時、どれ程握りしめ泣いただろうか。 「俺を裏切り他の男に抱かれた。今日は厳しい仕置きになるぞ」 涼はベッドの上で、右手は右足に、左手は左足にそれぞれ縛り付けられて横たわっている。 武範はベッドサイドに座り、涼の右乳首を摘むと躊躇い無く針を刺した。 「ああっ」 痛みに涙が溢れる。 「こっちもだ」 容赦なく武範は左の乳首にも針を貫く。 「うああっ」 「仕置きだからな、ここにも刺そうか?」 そう言いながら、武範は涼のペニスを触る。 「それとも乳首にもう一本ずつ十字に刺すか?選ばせやるよ」 選ぶ側にメリットはない二つの道を、いつも武範は選ばせる。 「…両方」 「ん?」 「両方に刺して」 武範は涼を見つめ、微笑んだ。 「お前も反省したのか?いい子だ。じゃあまずは乳首から」 「あうっ」 既に横に針が刺さっている乳首に、今度は下から上に十字に針を貫かれる。 とめどなく涙が溢れる。糺との別れの辛さの涙と悟られぬように、もっと酷くしてと涼は呟く。 一晩中陵辱され続けた重い身体を引き摺り、涼は自分の部屋のベッドに倒れこんだ。 ベッドサイドテーブルの上のDVD-Rが目に入る。 吸血鬼に扮した糺と魔女コスプレの自分が映る、ハロウィンパーティ映画。二人の大切な思い出。 映画の中のエキストラ達が口にするトリックオアトリートの言葉。 お菓子を提供するか悪戯されるか。 糺と別れるか、糺を危険に晒すか。 選ぶ側にメリットのない二つの道。 涼はDVD-Rにそっと口づけし、鍵付きの引き出しに入れた。 fin

ともだちにシェアしよう!