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第12話
4月下旬、糺は郵便受けに投函された封筒を開けた。
『好きな女が出来た。男同士なんて一時の気の迷いだった。お前とは二度と会わない』
ごく簡単な手紙と自分が涼に渡した合鍵が入っていた。
糺は、手紙と鍵を見つめ暫く呆然と立っていた。その後、鍵を叩きつけ、手紙を破り、顔を覆って床に突伏した。
糺が涼に愛想を尽かし誰か別の人と幸せになるように、なるべく手酷い別れの言葉を選んだ。
母と弟を泣かす事になっても一緒に生きたいと願った糺を、危険に晒せない。
武範に、せめてセックスは糺に鍵を返してからと頼んだ。夢を見せてくれた鍵を封筒に入れる時、どれ程握りしめ泣いただろうか。
「俺を裏切り他の男に抱かれた。今日は厳しい仕置きになるぞ」
涼はベッドの上で、右手は右足に、左手は左足にそれぞれ縛り付けられて横たわっている。
武範はベッドサイドに座り、涼の右乳首を摘むと躊躇い無く針を刺した。
「ああっ」
痛みに涙が溢れる。
「こっちもだ」
容赦なく武範は左の乳首にも針を貫く。
「うああっ」
「仕置きだからな、ここにも刺そうか?」
そう言いながら、武範は涼のペニスを触る。
「それとも乳首にもう一本ずつ十字に刺すか?選ばせやるよ」
選ぶ側にメリットはない二つの道を、いつも武範は選ばせる。
「…両方」
「ん?」
「両方に刺して」
武範は涼を見つめ、微笑んだ。
「お前も反省したのか?いい子だ。じゃあまずは乳首から」
「あうっ」
既に横に針が刺さっている乳首に、今度は下から上に十字に針を貫かれる。
とめどなく涙が溢れる。糺との別れの辛さの涙と悟られぬように、もっと酷くしてと涼は呟く。
一晩中陵辱され続けた重い身体を引き摺り、涼は自分の部屋のベッドに倒れこんだ。
ベッドサイドテーブルの上のDVD-Rが目に入る。
吸血鬼に扮した糺と魔女コスプレの自分が映る、ハロウィンパーティ映画。二人の大切な思い出。
映画の中のエキストラ達が口にするトリックオアトリートの言葉。
お菓子を提供するか悪戯されるか。
糺と別れるか、糺を危険に晒すか。
選ぶ側にメリットのない二つの道。
涼はDVD-Rにそっと口づけし、鍵付きの引き出しに入れた。
fin
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