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第11話

タクシーを待つ間に、武範が涼に告げた。 「百貨店に行く前に、Gホテルに寄る」 「えっ?」 Gホテルは武範が経営する高級ホテルで、その一室で二人はテーブルを挟んで向かい合う。 武範は書類大の封筒を涼に渡した。 「開けなさい」 中を見た涼の顔色がみるみる蒼白になる。糺の実家や家族構成まで調べた書類や、糺はもちろん、糺の部屋に入る涼の写真が大量にあった。 「長山糺君というそうだね。涼が先に彼の部屋に入り、後に長山君が帰ってくる事も度々あると報告にある。という事は涼は合鍵を持ってるんだな。散々俺からの呼び出しをキャンセルして、この男の部屋には足繁く通っているようだ」 「仲の良い友達なんだから、家くらい行く…」 「友達と言い張るならそれでもいい。その友達の就職先はシステム会社のWカンパニーだね。実はこのGホテル始め事業のいくつかの会計システムは、Wカンパニーのものでね。メンテナンス料でWカンパニーには毎年多額の金を払っている」 「…何が言いたい?」 「俺が社長に言えば、新入社員の立場なんてどうにでもなると言う事さ」 涼は座っているのに足元から崩れそうな感覚に襲われる。 「糺に何をするつもりだ…?」 「例えば学生時代レイプ事件を起こして示談にしたという噂を聞いたとでも、社長に話そうか」 「そんな根も葉もない話し、調べたら嘘だってわかる」 「涼、噂はね、真実でなくてもいいんだよ」 「ふざけるな!そんな事…」 「まあ、会社辞めてもお前とは会えるが、不慮の事故には気をつけないと。駅や道路なんかでね」 武範の言葉は涼を打ちのめす。 「嘘だろ…犯罪じゃないか…」 「俺は事故には気をつけないとって、一般的な話しをしてるだけだ。これも一般的な話しだけど、世の中には金を貰えば何でもする奴というのは必ずいる」 涼は眩暈で座っている事も困難になる。 「…糺に、糺に何かあったら許さない」 武範は笑顔を向けた。 「選ぶのはお前だよ、涼。お前が俺から離れなければ、彼は順調な社会生活を送る。それとも彼の安全な生活を壊す事が分かってて、彼の元に行くか」 涼は震える声で問う。 「俺をいつまで捕まえておく気なんだ…」 武範が席を立ち、涼のそばに行った。 「俺はお前が本当に可愛い。手放す気はないし、男でも女でも、お前を奪う奴は許さない」 そう告げると、武範は涼に濃厚な口づけを与えた。

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