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第1話

「うん、上出来」  オレンジ色のワンピースに紫色のマント。黒いトンガリ帽子をかぶって、『魔女』が完成した。仕上げに白黒縞模様のニーソックスを履いてしまえば、魅惑的なハロウィンパーティーの仮装になった。  橘優希(タチバナ・ユウキ)は鏡の前でくるりと回って自分の姿を確認した。翻ったワンピースの裾は短くて、扇情的だ。 「これなら、きっと大丈夫」  最後に、脱いだTシャツやジーパンなどを詰め込んだボストンバッグを手にして、誰もいない公衆トイレを後にした。  トイレから出てすぐそばにある建物は、小さな児童館だ。もう夜の8時は過ぎているというのに、仮装した子どもたちが楽しそうにはしゃいでいる。  そう。今夜は子どもたちが主役のハロウィンパーティー。手作りのジャック・オ・ランタンがたくさん飾ってあり、ヴァンパイアやミイラ男、ちびっ子魔女に仮装した子どもたちがわいわいと祭りを楽しんでいる。 「わああ、魔女さんだ!」 「かわいいねー! わたしも魔女さんになりたかったなぁー!」  帽子を目深にかぶった魔女姿の優希が現れると、小さい女の子たちが色めき立った。やはり女の子は、小さくてもオンナなのだ。 「嬉しいなぁ、ありがとー!」  しかし、優希が声を出した瞬間、女の子たちは不思議そうな表情に変わった。優希のことを見た目通り、女性だと思っていたのだろう。友達同士で「あれ?」と首を傾げている。  そんな様子を気にも留めず、優希は目的の人物を探す。歩くと太もものあたりがすーすーして、何と無く落ち着かないけれど、この衣装を選んで良かった。  この姿なら、あの人だって本気になってくれるだろうから。  風で帽子が飛ばないように押さえながら、優希はキョロキョロと当たりを見回した。

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