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第15話
「これでよしっ、と」
それからしばらくして、優希は事務室に置き去りにしていたボストンバッグとタオルを持ってきてもらい、身支度を整えた。体液で汚れてしまった魔女の衣装は丸めてバッグの中に詰め込んで、着替えの最中ずっと背中を向けていた父に声を掛ける。
「パパ、お待たせ。もうこっち見ていいよ?」
「ん……ああ、わかった」
散々優希の恥ずかしい姿を見ていたくせに、着替えは見られないなんて変わっている。そんなことを思いながら優希はバッグを肩にかけた。
身体はまだ火照っている。まだまだ足りなくて、もどかしいくらいだ。
あんなに激しく愛されたのに、なんて欲張りなんだろう――。
優希は父の後ろをついて歩きながら俯いた。こんな風に思っているのが自分だけだったら……そう考えると、切なくなってしまった。
誠一郎はキリッとした姿で歩いていく。一人の職員に声を掛けると、遊びに来た息子の体調が優れないので早退する旨を淡々と伝えている。
「迷惑をかけて申し訳ありません」
「いやいや、君にはいつも頑張ってもらっているから。息子さん、お大事にね」
優希は人の良さそうな職員にぺこりとお辞儀をして、児童館を後にした。
外に出ると、テントを片付けたり、ゴミをまとめる職員たちが声を掛け合って作業を進めていた。ハロウィンイベントは終わったのだろう。あれだけ大勢いた子どもたちの姿はない。
「子どもたち、みんな帰っちゃったんだね」
「時間が時間だからな」
「あんなに騒がしかったのが嘘みたい」
職員専用の駐車場は児童館から少し離れた場所にある。夜風に当たりながら歩いていると、さっきまで愛し合っていた熱が冷めていくような気がした。
誠一郎が鞄から車のキーを取り出すと、ピピッと音がして見慣れた車のライトが光る。
「すごく、幸せだったな……今年のハロウィン」
助手席に乗り込んで噛みしめるように呟くと、突然誠一郎が優希の身体を抱き寄せ、唇を重ねてきた。
「――っ……んッ…!」
それは一瞬のことだった。
触れるだけのキスに優希は驚き、父の顔を見上げる。
「まだ終わっていないぞ。大人のハロウィンは、これからだろう?」
冗談っぽく笑う父が愛おしくて、今度は優希から唇を触れ合わせた。
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