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01.とある阿呆のオナニーを見守る

 とある日の深夜、山中優(やまなか ゆう)は物音に反応し目を覚ました。  物音というよりは、揺れだろうか。二段ベッド特有のミシミシといった揺れは、紛れもなく下の段から発生している。  ――なんだよ、(しゅう)。こんな遅くに、シばく    双子の弟である秀の迷惑行為に、心の中で舌打ちをした。目覚まし時計に手を伸ばすと、時計の針は深夜の2時を回っているではないか。寝つきが悪いのか知らないが、そのうち収まるだろうと思い目を瞑り直してみるものの、揺れは一向に収まる気配がなかった。 「……っ ……はぁ、はぁ」  仕舞いには秀の荒い息遣いが聞こえてきた。妙にアダルトな弟の息もれに全身に鳥肌が立つ。その瞬間、これはただの揺れなのではなく、秀が自慰行為をして発生している揺れなのだと察する。 「おいおい……オナってんのかよ」  小さな声で呟く。行為自体が悪いわけではない。優自身も、必要であればこっそりとすることはある。ただ、秀の自慰行為は通常の人に比べ異常に長いのが特徴だった。以前もこのような状況に遭遇したことがあったが1時間以上「ハァ、ハァ」と漏れる秀の色っぽい声とモノと液が擦れる音だけが部屋に響き続けた。  ――あん時は、部活で疲れてたから、直ぐ寝れたんだけど……  ため息をつく。少しでも自慰行為被害を被っている事を気づかせる為に寝返りを打ってみるものの、一瞬擦る音が止まるだけですぐに行為は再開された。 「んっ……」  あとどれくらいの時間、弟の意味の分からない喘ぎ声を聞かなければいけないのだろうか。大抵こういう時、巷で噂である商業BLという漫画のジャンルだと他人の喘ぎ声につられ自身のモノも反応し、恋愛感情へと発展するというパターンが多いらしいが、残念ながら自信のモノは小さいままだ。  ――はやく終わんねぇかなぁ    目を瞑り、グラビアの女の子を想像し秀の喘ぎ声とリンクさせる。少し濁声ではあるが、いい妄想材料だ。 「……あっ …んっ」  よしいいぞ、もっとやれ。と逆にこの状況を楽しみつつ、早く自慰行為を終えることを心待ちにしていた。なぜならば―― 「あ、 ……駿もっと」  瞬時に耳を塞ぐ。秀の口から呼ばれる相手の名は、お互いの幼馴染であり親友の名前だった。自分の親友が弟の『夜のおかず』になっているなんて冗談にもほどがある。秀はそんな兄の気持ちなどつゆ知れず、駿の名前を呼び続けた。  ――なんで、毎回こいつのおかずは駿なんだよ……    秀の声を聴かない様に必死に耳を塞ぐ。さっきまで想像していたグラビアの女の子まで「駿」と言い出してしまう始末だ。 「あぁっ……」  喘ぎ声が、激しくなってくる。そろそろフィニッシュの時間だろうか。ほっと胸を撫で下ろす。……ところが、期待したのにも関わらず秀は一向に果てる気配がない。  ――あいつ、どんな精神力してんだよ……  そこで優は1つの興味が生まれた。こんなに長い自慰行為を秀はどのように行っているのだろうか。優は自分の世界に入っている秀に気づかれない様にこっそりと下の段を覗いた。 「っ!?」  飛び出そうになった声を瞬時に飲み込むと、音を立てない様に口を覆う。  ――何してんだよ……  こっそりと見つめた先には、自身のベルトで目隠しをした秀が、今日無くしたと駿が騒いでいたタオルを嗅ぎ、必死に自身のモノをしごいているではないか。 「ん…… あっ」    すごい、と優は心の底から尊敬をした。自分にはこんな性癖を持ち合せていない。身近にはTVのニュースで取り上げられるような「変態」と呼ばれる部類は存在しないと思っていた。しかし今目の前にいるのは普段の阿呆な弟などではなく紛れもない変態ではないか。 「気持ち悪いを超えて、凄ぇ」  完成された変態具合に、優は息をのんだ。そもそも、タオルはどのようにして自分でしめたのだろうか。つっこみきれない弟の自慰行為に、ただただ敬意を表する。 「あぁあっ‼」  秀の一人遊びも、正真正銘のフィニッシュに近づいているようだ。普段はうるさいと感じている喘ぎ声も、まるでポルノ映画を見ているような感覚に優は目が離せなくなっていた。 「はぁ……はぁ…」  徐々にスピードが上がっていく。 「駿…んんっ……!」  スピードを上げて5分もたたないうちに、秀は腰を浮かせて果てた。暗闇の中なので、はっきりとは見えないが白く濁ったものが腹の上に飛び散っている。 「ふぅ」  一息つくと、秀は何事もなかったかのようにベルトをはずし、身体を起き上げた。事前に準備していたテッシュ箱から勢いよく2、3枚取り出し飛び散った自身の白液をふき取っていく。 「スッキリした。今日は、いつもより激しくやっちまった」  優が起きていることなど知らずに独り言をつぶやいた。清々しい表情をしている事に無性に腹が立った 「やっぱり目隠しはいいな……。あ、駿のタオル返さないと。朝に優のバックにでも入れておくか」  使用済の駿のタオルを手に取ると、再度匂いを嗅ぎ満足そうに布団の中へもぐりこんだ。 「明日はいい日になるといいな」  秀はそういうと、目を瞑りそのまま夢の中へと入っていった。一方、ひっそりとその光景を見つめていた優は、秀が果てると同時に目覚めてしまった自分のモノをどう処理するか頭を抱えて悩んでいたのだった。 【終】

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