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第1話

「ただいま戻りました~」  魔法協会に用のあったフィオレオが安宿へ帰ってきた。ちょうど昼だったので、近くのファストフード店から食事を買ってきていた。 「おう、おかえり」 ガットは薄いベッドの上で、半裸状態で日中から酒を煽っていた。 「あれ?ガットも外に出たんですか?お酒買ってきてたんですね。ちょうど良かった、ご飯買ってきたんですよ」 「ん、さんきゅ。指令はあったか?」 「いえ … 今日もさっぱり」 「だろうな」  ケラケラとガットは笑う。 4 日前に仕事が終わってからガット達のパーティーに指令が下っておらず、つまり、二人は今、プーな状態であった。ガットは笑っているが、このまま指令がこなければお金がなくなってしまう。 「ガット、もうそろそろお金が尽きますよぉ」 「いいじゃねぇか、世界が平和ってことだろ?」 (平和、というか、単に僕たちに仕事が回っていないだけなんですけど~)   ガットとは対照的にフィオレオは困ったように眉をハの字に下げて泣き言を頭の中で言いながら、魔法使い用のフードを払った。髪をロープの中から取り出そうとして、手が空を切る。 フィオレオはハタと気づいた。 最近、自分が行った『暴走』のせいで、髪を切ってしまったのだった。魔法使いは魔力を髪に溜める。そのため、髪を伸ばすことが通常であったため、いつもの癖が出てしまったのだ。  窓に映る自分の姿を見て、フィオレオは短い髪型に違和感を覚えた。ピョンと跳ねる髪の先をクイクイッと伸ばしていると、「その髪型、意外とお前に似合ってるよな」とガットがガブガブと酒を飲みながら言った。 「え?ほ、ホントですか?!」 パァッとフィオレオの顔が明るくなる。 「ああ、セックスの時、男らしくて燃える。お前ヒョロっちくて髪が長いと女っぽいんだよな。あ、けどやっぱり短いと魔力が一気に減るな」  ガットの悪意のない言葉がグサグサとフィオレオに刺さる。これはこのまま伸ばして魔力を戻す方がいいのか、それとも、ガット好みの男になるため切ったままがいいのか。 うぅ~ん、と唸るフィオレオを尻目に、ガットはマイペースに昼食の袋を漁った。 「とりあえず、メシ食おうぜ?あ、それとお前の分もあるぞ、酒」 「へ?酒?」  キョトンとフィオレオが目を丸くした。それもそのはずで、普段、フィオレオは酒を飲まない。付き合いで時たま飲む時もあるが、そもそも強くないし味も好みではない。甘い味しか飲まないフィオレオはよく「お子様」とガットに言われていた。そのため、お酒が好きなガットはよくお酒を買うもののフィオレオの分まで買うことはあまりなかった。  ベッドの上に放り投げられていた深緑色の酒瓶をぐいぐいと勧められる。いつもと違うガットの態度に、フィオレオはゴクリと生唾を飲んだ。 ( … なんかイヤな予感がする) 「あの … まだお昼ですし、ガットみたいに強くないんで、僕は遠慮しま … 」 「どうせオフなんだし、酔っ払ったって大丈夫だろ?」 「や、そうなんですけど…、ほ、ほら、お酒の味も僕あんまり好きじゃないですし」 「これ、甘いぜ?チェルノの酒だってさ」 「あ、そ、そうなんですね … っ」 「ほら」 「え?~~っんむ!?」  言い訳がなくなってきたところで、ガットが瓶に口をつけたと思ったらいきなり後頭部を掴まれ唇を塞がれた。無防備な口の中にガットの舌と生ぬるい甘い液体が無理矢理流し込まれる。  反射的にゴクリゴクリと飲み干してしまった。  しかし、すぐにはガットの唇が離れない。器用な舌が舌の裏や上顎を撫でてきて、ゾワリと背筋が震えた。酒ではなく、二人の唾液がたっぷりと混ざり合った頃、ガットの唇がチュポンとわざとらしく水音を鳴らして離れた。 「…ん、甘かったろ?」 「 … はぁ … はい ♡ 」 ガットの舌テクにうっとりして、フィオレオは酒瓶を手に取ってしまった。

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