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アラームを掛けていないはずなのに、何故か自然に目覚めてしまった。 ふわりと意識が覚醒する心地良い感覚は久しく体験していなかったもの。 ベッドサイドの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し口に含む。ぐるりと首を回したところで、スマホのランプが点滅しているのに気付いた。 仕事用とプライベート用、どちらを先に見るかなんて決まっている。 着信はなし。残るは数件のメールとLINE。 逡巡してから、緑のアイコンをタップした。 トーク一覧には馴染みの名前が並ぶだけ。 連絡すると言っていただけに、落ち込むのは仕方ないだろう。 複雑なアドレスのせいか迷惑メールが来たことはないし、いつも企業広告が届くだけ。 落胆しつつ画面に視線を滑らせると、登録されていないアドレスから。 件名を見て頬が緩んだ。 きっとバイト終わりに作成したであろうそれに、返信画面を開く。 『おはよう。 LINEで連絡してくるとばかり思ってたからびっくりしたよ。 俺が変なこと言ったせいだし、気にしないで。 お店、また行かせてもらうね』 良い1日になりそうだと嬉しく思いながら、シャワーを浴びようと寝室を出た。 「にゃーお」 朝の挨拶かな。 足元に擦り寄る猫を抱き上げようとして、やめた。 ゆっくり腰を下ろして撫でてやる。 「おはよう、ミウ」 ミウの頭越しに見えるのは、ローテーブルに置かれた袋。 あの日。彼から拝借してきたハンカチを、まだ返せないでいる。 返したらそれで終わるわけでもないのに、何を躊躇しているのか。 答えも水音と共に流れて行く気がした。 テレビを付けて、オープンタイプのキッチンへ向かう。 ニュースを聞きながらパンをトースターにセットし、良く焼いたベーコンとスクランブルエッグを皿に盛る。 笛吹きケトルが鳴ったら粉末のコーンスープを溶かして終了。 身長のわりに少食で、朝食は大体こんなものだ。 ミウの食器に餌を入れてやり、自分は食後のカフェオレを。 ペンギン型の機械が頑張ってくれているうちに、寝室へ向かう。 そんなにすぐ返事が来るとは思っていなかったのに、受信ボックスには彼の名前が。

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