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13.
勤務の終わった朝。眠い目を擦りながら店を出る。歌舞伎町といえど早朝は人もまばらで、ぶつかる心配はない。
ゆっくり駅へと向かい、ホームでスマホを取り出した。電車に乗れば確実に寝てしまうだろうから、待っているこの時間で。
名刺には電話番号とメールアドレス、そしてLINEのID。
少し悩んでメールの画面を開いた。
件名に『芹生です。』これは普通だと思う。
さて、本文をどうするか…。
勤務中、ずっと考えていたものの案外難しい。
『おはようございます。
連絡先、教えてくださってありがとうございました。
いつもお店に来て頂けて嬉しいです。
またお待ちしてますね!』
業者のダイレクトメールかよ…と自分でツッコミを入れてしまう。
行き詰まって待合室の天井を見上げる。
ふと、重ねられた手の温度を思い出した。
最後に付け足すこの一文で、彼は分かってくれるだろうか。
『それと、昨晩はすみませんでした。』
誤字脱字がないかもう一度チェックして、送信。
仕事はないはずだから、きっとまだ眠っているだろう。
いつもLINEを使っているから、メールは久しぶりだ。
ID検索からの友達追加という行動、それに無料通話が簡単に出来てしまうこのツールを使う勇気はなかった。
(アイコンが写真だったら、多分まともにトーク画面見れない…)
メールをする相手は彼くらいだから。
LINEのように埋もれてしまうこともないはずだ。
(まあ、そこまで連絡しないと思うけど)
電車の到着を告げるアナウンスが聞こえて、立ち上がり伸びをする。
(連絡先…何で俺に教えてくれたのか、だけは聞きたいな)
返事が来たら、また考えよう。
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