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シャワーを浴び終え、ペットボトルを手に取ったところでスマホが振動する。 いつもより長いそれは、着信を知らせるもの。 どうせまたハルあたりだ。あいつは暇なのか、と呟いて画面も見ずに応答した。 「…はい」 『あ…もしもし、』 ペットボトルを落としそうになって、思わず変に力を入れてしまう。べキッと鳴った音は向こうまで聞こえていないだろうか。 『え、と……ルイさん?』 静まり返った電話口を不審に思ったのか、遠慮がちに声をかけられて我に返る。画面を見れば『楓くん』の表示が。 「ご、ごめん。珍しいね…電話だなんて」 『すみません、もしかしてお休み中でしたか?』 首を振ってから、電話では伝わらないと思い直した。 「違うよ、仕事の準備してたところ」 『そうですか…良かった。ちょっと声が低かったので、寝起きかと思って』 あ、それとも機械を通してるからですかね?なんて楽しそうに笑う彼は相変わらず可愛い。 ハルだと思い込んでいたから、無意識に声色まで変わっていたのか。だとしてもすぐに察した楓くんは、やっぱり人の機微に敏感だ。

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