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ごほうび、と口の中で反芻する。 小さい頃は慣れ親しんだそれも、この歳になるとすっかり懐かしい響きで。 『楓くんがしたいこと、叶えてあげる。どう?』 なんだか無性にわくわくしてきた。本当は遠慮するのが普通の対応なんだろうけど、頑張った今回だけは自分に素直になっても良いかな。 「それって、何でも…ですか?」 『…えっ?あ、うん…まぁ、俺に出来ることなら』 当惑したような声色のルイさんに、何を頼もうか考えを巡らせる。 「じゃあ、ええと…仕事、してるところ。見たいです」 『仕事…?』 「はい。きっとどんな女の人でも骨抜きにするような、すごい接客をするんだろうなあって」 普段あれだけ紳士的、かつ格好良く俺と話をしている彼が、自らのフィールドでどういう風に振る舞うのか。一度見てみたかった。 『…オーケー。取りあえず上の人に許可貰ってから、また連絡するよ』 「ふふ、楽しみにしてますね。よろしくお願いします」 案外あっさりとご褒美の話が進んで、上機嫌のまま通話を終了させる。 電話口の向こうで、ルイさんが悶絶しているとも知らずに。

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