329 / 330
329.
「楓くん、そろそろ出るけど準備できた?」
「あ、はい!大丈夫です」
声を掛けられ時計を見ると、いつもより早い時間。仕込みの準備かと首を傾げる。
「今日は歩いて行こうか」
車を停めている駐車場を通り過ぎた頃、するりと右手を絡め取られる。驚いて隣を見やれば、彼の左手に座す指輪が光った。
「お店、少し早く閉めようと思うんだけど」
「えっ…どうしてですか?」
「ちょうど2年前だったね」
噛み合わない会話に小さく唸る。2年前?2月―――?
「…あ!」
「思い出した?」
それは、一番初めの記憶。あのコンビニで。
色々な想いを経てなお、鮮やかに蘇る記憶。
「夜ご飯、頑張りますね」
「ふふ、楽しみだな」
出逢って2年目の記念日には。いつもより豪華な食事と、とっておきのワイン。綻ぶ彼の顔を想像すれば腕が鳴る。
そのためにもまずはしっかり仕事をしよう。今日も、こうして隣に居られること。一緒に働けること。全てに感謝しながら。
晄さん越しに見上げる空は、突き抜けるような青色だった。
To be continue...
ともだちにシェアしよう!