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328.
目覚まし時計の音が鳴り響く。無意識で手を伸ばし、その耳障りな機械音を止めた。
布団から出た肩が冷えて寒い。目の前の温もりに擦り寄ると、柔らかな手つきで頭を撫でられる。
「楓くん、起きて」
羽で擽るような声音。それが目の前の愛しい人から発せられるものだと気づいて、ゆるゆると重い瞼を引き上げた。
「おはよう」
「…ぁ、ようございます……」
絞り出した挨拶は掠れていて、それは嫌でも昨夜を思い出す要素になった。顔に集まる熱を冷まそうと体を起こす。
「さすがにまだ寒いね」
2月下旬と言えども朝は冷え込みが厳しい。寝ている間は消されていた暖房が再び稼働し、加湿器の水量を確かめる晄さんをぼんやり眺める。
「朝ご飯、準備しておくから。着替えて顔洗っておいで」
情事の翌朝は晄さんが朝食を担当してくれる。特に決めていた訳ではないにしろ、その気遣いが嬉しい。こういったささやかな優しさがあるからこそ、普段は自分が頑張ろうと思えるというものだ。
頭を撫でて微笑む彼の背を見送って、ゆっくり伸びをする。
こんな時間が当たり前の日常になるなんて、出会った当初は想像もしていなかった。
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