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詭弁じゃない
カメラ君に『自分のタイミングで再開していいから』とだけ伝えて、かなりご立腹なテツヤさんと向き合う。だが、
「……もう、いい。帰る。金もいらねぇ」
「えっ、ちょ、待って、テツヤさん……!」
「うるっせ……っ、!?」
ここまで来て帰られたらさすがに困る。てか俺がやだ。せっかくテツヤさんみたいな人に出会えたのに。
俺の下から脱け出した彼の腕を引っ掴み、後ろから抱きしめる。
急に引き寄せたせいで体勢を崩し、彼の全体重が俺に寄りかかる。
その重みさえ心地好い。
ばかにしたわけじゃないって、その気持ちが伝わってほしい一心で、肩に回した腕にぎゅう、と力を込めた。
「っ、離せ……こんなとこ、居たくもない」
「待って、お願い。違うんだよ、ごめんなさい……」
「いい。言い訳は聞きたくねぇ。悪かったな、みっともない姿見させて」
「……ほんとに違うんだって」
なんで、どうした、俺。うまい言葉が出てこない。
いつもなら、もっとなんか言えるはず。
いや、そもそもこんな失敗はしないのに。
がっちりと腕の中にホールドしたから暴れることはないけれど、とんだ失態を仕出かした俺を、彼は当然、許す気はないらしい。
さっきまで甘い声を発していた口から、悲嘆と怒りの混じった低い声が紡ぎ出される。
頼むよ、お願い、行かないで、ごめんなさい。
うわ言のようにそればかり繰り返して、項に額を埋めていると、とうとう彼から盛大な溜め息が漏れる。
「何なんだ、あんたは……。狂犬になったり子犬になったり……忙しいやつだな」
「……そんなこと言われたの、初めてなんだ」
「……は? 狂犬?」
「違うよ」
──付き合った人としかシない。って、台詞。
こんな汚ない欲にまみれた墜落した世界で、そんな言葉を聞いたのは初めてだった。
だから、どう反応していいか、対処の方法が分からなかったんだ。
素直にそう言えば、彼は信じてくれたのか、俺のほうを振り向く。
全てを見透かされそうなその目に──本当は、最初から。
「……信じて、くれる?」
「まだ、半信半疑だ」
「それでもいい……。好きだ、好きです、テツヤさん……」
「ちょ、おい……っ」
「テツヤさん、お願いだから……」
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