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終幕
「なら、仕事の話だったんじゃないのか」
「大したことじゃないけどね。道具使ったら元の場所にしまえってさ。なくしたらしいよ。んで、俺のせいにされてた」
「ど、どうぐ……」
「一応言っておくけど、えっちな道具じゃないからね」
「……っ、」
「はは、テツヤさんって分かりやすい」
笑って、やつはソファから立ち上がったかと思えば、棚から新しいウィスキーを取り出し、ストレートでグラスに注いでいる。まだ飲むのか。
テーブルに腰かけたそいつと目が合い、にっこりと笑顔を向けられて、ドキリとする。
「俺の自惚れだったら笑ってもいいから、とりあえず聞いて」
「……?」
「正直俺らって両想いだよね?」
「っは? きゅ、急に何言ってんだ……」
「急じゃないよ、ずっと思ってた。でも、テツヤさんは何か理由があって俺と付き合いたくない、のか何なのかその辺はよく分かんないけど……。俺のことは、嫌いではないんでしょ?」
「っ、」
整った笑みにいちいち心臓が高鳴り、うろうろと目を逸らす。
足の間で組んだ手のひらを無言で見つめる俺に、やつの笑う気配がした。
きらいなはずがない。
そうだったら今、俺はここにいない。
しかし、ここで好きだなんて言ってしまえば、それこそ本末転倒で。
「今はそれでいいよ。答えなくていい」
「っ、」
「そばにいれるだけで充分だから」
肩を竦めて苦笑する、その表情に泣きたくなる。
……俺は、本当に馬鹿だ。
そんなことまで言わせて、こちらの気持ちもバレバレで、結局は我が儘ばかり。
本当はすっぱり離れたほうが、互いにとっても賢明だというのに。
「……ごめん」
「なんで謝るの。でも、たまにはチューくらいしてほしいかな」
「……ふは、それはねぇよ。ばか」
笑顔でいてくれる、その優しさが切なくて、憎めない。
どのみち苦しい思いはたくさんするんだろうが、それでも。
やつの“特別”になれなくても、そばにいれるだけでいいと思うのは、同じだ。
好きだけど付き合わない、付き合わないけど側にいたい。
とんでもなく矛盾した気持ちを抱え、脆くて情けなくて馬鹿な俺は。
一体いつまで、茶番を演じ続けることが出来るのだろうか。
fin.
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