44 / 61

第44話

「おはよーございまーす。」 「おはよー、真琴くん。今日はニコニコだね〜。なんかいい事あったの?」 店長の千奈美(チナミ)さんがカットの練習をしながら話しかけてくれる。 「そうなんですよー。なんか俺、今日は凄い頑張れる気がしますッ!」 腕を捲りながらそう意気込む。 「ははっ!そりゃ良かったわ。じゃあ今日は私が手を抜いちゃおうかな〜」 「ちょっ、千奈美さん!俺はいつも真面目にやってるんだから千奈美さんも頑張ってください!」 「ジョーダンだよ、冗談。もー、びっくりしすぎだよ〜。本当に真琴くんは面白いなぁ。」 楽しそうに笑う千奈美さんは少しSだ。いや、どっちかというとドSだ。 「……そういえば今日でここに働き出して1年ですね…、俺、実感ないです。」 1年前のあの頃、鈍臭くて、クビにされてばかりだった俺に手を差し伸べてくれたのが千奈美さんだった。 それはもうあの頃は女神か何かかと思う程、千奈美さんは輝いて見えたものだ。 「そうだねぇ。でもまぁ、私はまだまだ真琴くんとは仲良くしたいし、お話したいからこれからも宜しくね! 辞めるなんて言い出した日には殴ってでも止めてやるからさッ!」 「はは…っ、千奈美さん、顔が本気なんで怖いです…。 ……そうですね、俺もまだ千奈美さんと働きたいし、辞める気なんてサラサラありませんよ。鈍臭い俺に手を差し伸べてくれた千奈美さんには恩返しもしないとですし。」 そして、千奈美さんは俺の秘密を知っている数少ない人でもある。 俺がΩで、しかも番がいる。それを知っていて俺を雇ってくれている。もともと姉御肌らしく、俺みたいなタイプは放っておけないらしい。 しかも、千奈美さんはαなのにそれを隠し、努力していまの職についたらしい。 そんな千奈美さんは、俺の目標でもあった。

ともだちにシェアしよう!