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第2話 始まり.1
「先生。ありがとうございます。先生のお陰でこの子もすっかり....」
「いえ、別に。」
静まり返る診察室。
患者の母親もこれには何と返したら良いのか分からず、困った顔をする。
俺の後ろにいる看護師もため息をつくのが分かった。
いつもと同じ。
こっちから色々と話をするのも面倒なため、いつもこうして冷たくあしらった。
午前の診察がやっと終わり、いつものように一階にあるコーヒーカフェに行く。
職員専用入り口から入って、オーナーがいるカウンターでブラックコーヒーを頼んだ。
窓側の部屋の隅が俺の特等席。
毎日同じ席に座るため、他の職員もこの席には座らない。
3分ぐらい経っただろうか。
ミステリー小説を読みながら待つ俺の前に、さっき頼んだコーヒーが運ばれる。
そして、それを飲みながらゆったりと本の続きを読んでいた。
何もかもがいつもと同じ。
正直、つまらない。
コーヒーの苦さが少し増した気がした。
午後の診察は緊急の患者だけ。
午後4時になり、何となくだがもう誰も来ないような気がしていたため、早めに診察室を閉めた。
そして、先程のカフェに再び行く。
午後の診察が終わったあとはアップルティーと毎度決まっていた。
同じ席に座り、運び込まれたアップルティーを飲みながら同じ小説の続きを読む。
7時になれば帰れる。
あと二時間半。
昨日の今頃は、一週間高熱を出していた幼児の診察をしていた。
本当に、暇だ。
これから何をしていようか。
ふと俺のデスクに乗っていた書類を思い出す。
そう言えば、明日までに整理をしなければならなかった。
何をするか決まったところで、席を立ち、元来た道を戻る。
これから何が起こるのかも知らずに。
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