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第3話 始まり.2

階段を上って、突き当たりが小児科だ。 いつもこの時間にはフロアにも人の気配すらない。 すると、小児科のカウンターの前に人影があった。 一人、白衣の着た医者。 人に関心がないため、他の医者など覚えていない。 「..」 「あ、いた。市川先生、ですよね?」(ニコッ 全く面識のない人に名前を呼ばれ、少し身を引く。 張り付けたような笑顔を浮かべ、俺を見るその医者はさらに俺に近づいてきた。 「市川先生?」 「あ、あぁ。そうですけど。」 「俺、東藤って言います。外科専門です。」 「はぁ..。」 外科専門が小児科医に何の用だろう。 「いきなりすみませんね。市川先生の噂を色々聞いて、気になって訪ねてみたんです。ほら、凄く優秀だと誰もが言っていたものですから。」 「..もう、いいでしょうか。」 めんどくさい。 「あ、何かすみませんね。何か引き止めちゃったようで。」 「いえ、ではこれで..。」 東藤と名乗る医者の隣を通り、カウンターから診察室に入る。 疲れた..。 思わずため息が漏れる。 人との会話は苦手だ。 だから看護師からコミュ傷とか言われるんだよな。 ま、どうでもいいけど。 それより、さっきの医者。 あれは何だったのだろうか。 ファイルを整理しながら考える。 やっと終わり、ふぅっと息をつく。 意外と時間がかかった。 それでもまだ5時半。 何気なくチラッと患者のカルテが保管されている棚の上を見ると、まだ湯気の立っているコーヒーカップが置いてあった。 看護師がここで寛ぐことは滅多にない。 誰かが淹れてくれたのだろうか。 カップを取り中を見ると、自分が好きなアップルティーが淹れてあった。 やはり誰かが自分のために淹れてくれたのだろう。 一口飲む。 「..美味しい。」 ほんのりとした苦味と林檎の甘味が口の中いっぱいに広がる。 喉が乾いていたため、ごくごくと中身を飲んでいく。 あっという間に飲み干してしまった。 今度こそやることがなくなり、デスクに突っ伏す。 元々あまり睡眠時間が短い方だが、 最近は本当に何も眠れていない。 そのせいだろうか。 俺はいつの間にか、深い眠りについてしまった。

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