3 / 8
第3話 始まり.2
階段を上って、突き当たりが小児科だ。
いつもこの時間にはフロアにも人の気配すらない。
すると、小児科のカウンターの前に人影があった。
一人、白衣の着た医者。
人に関心がないため、他の医者など覚えていない。
「..」
「あ、いた。市川先生、ですよね?」(ニコッ
全く面識のない人に名前を呼ばれ、少し身を引く。
張り付けたような笑顔を浮かべ、俺を見るその医者はさらに俺に近づいてきた。
「市川先生?」
「あ、あぁ。そうですけど。」
「俺、東藤って言います。外科専門です。」
「はぁ..。」
外科専門が小児科医に何の用だろう。
「いきなりすみませんね。市川先生の噂を色々聞いて、気になって訪ねてみたんです。ほら、凄く優秀だと誰もが言っていたものですから。」
「..もう、いいでしょうか。」
めんどくさい。
「あ、何かすみませんね。何か引き止めちゃったようで。」
「いえ、ではこれで..。」
東藤と名乗る医者の隣を通り、カウンターから診察室に入る。
疲れた..。
思わずため息が漏れる。
人との会話は苦手だ。
だから看護師からコミュ傷とか言われるんだよな。
ま、どうでもいいけど。
それより、さっきの医者。
あれは何だったのだろうか。
ファイルを整理しながら考える。
やっと終わり、ふぅっと息をつく。
意外と時間がかかった。
それでもまだ5時半。
何気なくチラッと患者のカルテが保管されている棚の上を見ると、まだ湯気の立っているコーヒーカップが置いてあった。
看護師がここで寛ぐことは滅多にない。
誰かが淹れてくれたのだろうか。
カップを取り中を見ると、自分が好きなアップルティーが淹れてあった。
やはり誰かが自分のために淹れてくれたのだろう。
一口飲む。
「..美味しい。」
ほんのりとした苦味と林檎の甘味が口の中いっぱいに広がる。
喉が乾いていたため、ごくごくと中身を飲んでいく。
あっという間に飲み干してしまった。
今度こそやることがなくなり、デスクに突っ伏す。
元々あまり睡眠時間が短い方だが、
最近は本当に何も眠れていない。
そのせいだろうか。
俺はいつの間にか、深い眠りについてしまった。
ともだちにシェアしよう!