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1-美人痴漢に遭遇
触られている。
高校生の尾上雄太 は信じられないながらもそう思わざるをえなかった。
バスケの部活帰り、混み合う電車の中で。
誰かが自分の尻を撫でている。
う、う、嘘だろ……。
頭上の吊り革を握る雄太は有り得ない事態に困惑した。
自分はどこからどう見ても男だ。
身長は百八十手前で短髪。
学ランを着ていて、女に間違われることなんて、いくら何でも……。
「っ」
思い切り尻の肉を掴まれた。
手加減ない力で揉みしだかれる。
な、何だよ、これ。
ワケわからないんですけど。
混んでいて偶然当たっている、なんてもんじゃない。
明らかに俺のケツを揉んでいる。
何これ、痴漢? 変態?
前後左右に他の乗客が迫る中、雄太は何とか首を回し、ぎこちない仕草で背後を見やった。
「……」
真後ろにいたのは一人の会社員風の男だった。
メタルフレームの眼鏡をかけ、落ち着いたこげ茶色の髪をさらりと流し、ストライプのネクタイを締めた若い男。
この人が俺のケツを揉んでんの?
こんな普通っぽい、むしろイケメンの部類に入りそうな人が?
素直に驚いた雄太が凝視していると男はやや伏せていた眼差しを上げた。
視線が重なる。
男は薄赤い唇を歪めて、ゆっくりと、雄太に微笑みかけた。
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