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第1話
十三階建ての屋上のフェンスを越えて、僕は足下を見た。
米粒のような人の往来、ミニカーみたいな車の列。下から吹き上げてくる生ぬるい風に、前髪を掻き上げられた。
震える左手でフェンスをつかみながら、僕はネクタイをゆるめ、引き抜いて放り投げてみる。はらはらとゆっくり落下していく紺色のネクタイを眺め、脳内でシミュレーションしていた。こうやって僕も落ちていくのか、と。
信号の関係で、ビル前の人の往来が途切れる。
「……人に当たりませんように」
僕は意を決して、フェンスから手を離した。ぐらりと身体が傾いて、頭から地面に向かって落ちていく。落下していく自分と目が合う。ビル全面に張られたガラスのせいだった。
さようなら、もう生きていられない――。
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