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第7話
「直、直、愛してるよ、直」
僕はもうそう言い続ける他に、することがなかった。顔はきっと涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「俺もだよ。思い詰めたお前に何もしてあげられなくてごめんな」
自分を呪った。あの晩、僕は自殺を止めてくれなかった直をとがめてしまった。止められるはずがないのに。
「直……」
ぐしゃぐしゃの僕に、直はもう一度キスをした。
「お前がいない世界なんか見守る必要なくなるだろ? 俺にやりがいを与えると思って、もうちょっとそっちにいてくれ」
そう言って笑うと、ふわりと僕を包み込む。抱かれた実感のないまま、直の身体は小さな光る塵となった。
同時に夕日が水平線に姿を消したのだった。
++++
目が覚めると、真っ白の天井が飛び込んできた。
部屋に響くのは、自分の心拍を示しているであろう電子音。
目に涙をためてのぞき込んでいたのは、僕の母親と、直の母親だった。
ふたりは慌てた様子で、僕に声をかけ、直の母親は医師を呼びに行った。
ああ、やはり助かってしまった。
そして僕はまた、生きていかねばならない。
そうだろう、直。
(おわり)
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