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止まった時計

「その声じゃ売れないね」 「こもって聞きにくい」 「滑舌が悪い」 唄えなくなってひとりになってから、思い出さなくなっていた言葉がまた追いかけてくる。 落ち込み出すと止まらない。 考えないようにしよう、なんて思ってる時点でもう考えてる。思考ってどうやって止めたらいいの? なんでこんなことがコントロール出来ない? 止まれ! 止まれ! オレの脳はコントロール不能?! 頭の中にどれだけ嫌なことが詰まってるのか。 オレはこんなにもちっぽけで弱いのか。 胸をギュッと押さえつけられるような息苦しい感覚は心理的なものだ。自分でも知らなかった、オレの心は水たまりに出来た薄い氷よりも脆い。 歌詞を書いたって今更どうなる、そう思いながら独り言のように書き連ねるブログの文字。 情けない。 ……唄うことはできないのに歌詞やメロディーはさらさらと湧き水のようにあふれてくる。 「僕はもう空っぽ。声に満たされたい」 独り言のように書いたブログについたコメントは懐かしく、苦しく詰まった胸に風穴をあけた。 その文字はたんだん透明なレンズで膨らみ読めなくなって流れ落ちる。 オレの声に満たされたいと言ってくれる人を思い浮かべるのなら、ひとりしかいない。 オレの声で満たされたい、そう言ってくれる人……。 「あの店で待ってる」 自分のことを信じよう、もし自分を信じることができなくても 自分を求めてくれる人を信じよう、オレよりオレのこと信じてくれてるのだから。 今足りないものが何なのか、やっと思い出すことが出来た。 オレは久しぶりにあの地下への階段をゆっくりと降りた。 ドアをそっと開けると、止まっていた時間がまた動き出す……。 【終】

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