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鴉
僕を待たせるのが嫌だからという理由で彼は僕との同居は考えてないらしい。
ツアーにでたりレコーディングで何日も不規則な日が続くのは仕事だからそんなもんだろうと思っているけど。
僕の方も一緒に居たい気持ちはあるけれど、彼のペースに踏み込むなんてプレッシャーでしかない。
だけど君が忙しくなればなるほど、一目だけでもほんの数分だけでも会いたいと思うのは、人として普通のことだよね?
会えないと思えば会いたくなり、自由になれば不安になる。僕は凡庸だ。
今日は新曲が出来たからそのPVの撮影なんだって。
夜の街で唄うシーンだから遅くなるけどどうしても会いたいって言われてる。
なんだろう、今日ってなにかの日だっけ?と考えたけど思いつかなかった。
食事してくるのかな、軽く食べられるもの作ろうか……。
うちに来ると言ってたから冷蔵庫にあるもので。
何もせずに待つのは嫌だ。
キャベツを千切りにして、玉ねぎも薄く切って塩コショウで炒める。最後にカレー粉を振って。
卵は塩コショウを入れてやわらかめのスクランブル。
「もうすぐ行くよ!」
メッセージがとどいた。
ポットに水を入れてスイッチをいれる。
コーヒー豆をミルに入れてガリガリと取手を回す。
その音がだんだんリズムに乗ってきて気持ちいい。
バケットとイングリッシュマフィンを冷凍庫から出してオーブントースターにいれた。
お湯が沸く間にパンは焼けたけどちょっと早すぎたかな。
でもいい感じに焼けた!
マフィンにバターをバケットにケチャップとマヨネーズを。
カレー味の野菜と卵をのせて粗挽きコショウを振っていたらインターホンが続けて3回鳴った。
慌しい鳴らし方はいつものことだ。
「おかえり!」
ドアを開けると黒い塊が被さってきて思わず体をねじって頭を抱えた。
その上からぎゅーーーっと抱きしめられて
「ただいま、お腹も心もペコペコ!」
僕はそっと手を頭から離して振り返った。
「!!」
「今日はカラスなんだー」
と、ニッコリ笑って手を広げてポーズをする彼の髪も服も真っ黒で僕はなんだか照れくさくて
「パンならあるよ」
って言いながら誤魔化すために顔を逸らし、手を引いて上がらせる。
黒髪が好きって言ってないはずだと思い出しながらコーヒーを入れてると
「わっ美味そう!オレもうここに住んで毎日ご飯たべたいな!」
なんて言ってる。
僕はそれも楽しいかなって思いながらカップをテーブルに置き
「掃除も洗濯もご飯も二人でするならね」
と、見慣れないけど本当は大好きな黒髪をクシャッと撫でた。
[終]
(※いつも金とかグレーの髪色、派手な服を着ている彼。僕は黒髪が好きという本編での話から)
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