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第1話
「頼むよ、まきまき~一生の一生のお願い!」
と言う人間に限って、一生が2回も3回もあるのか、と突っ込みたくなるくらいその言葉を言っているよな。なんて、降旗万貴(ふりはたまき)は思って聞いていた。
「聞いてる? おーい、おーい」
電話口で叫ぶ男は降旗のバイト先の店長で、先週も先々週も「一生のお願い」をしていた。
「だって、俺の名前、一生(いっしょう)だもん」
だもん、ってあんたは一体何歳なんだよ、とまた突っ込みたくなるが、明らかに面倒臭いと降旗は思った。
とは言っても、「お願い」というのはブラックバイトさながらに降旗の望まないシフトを組まされたり、給料日に給料がちゃんと貰えなかったり……そんなことはない。ちょっと買い出しに行ってきて。とか、どこどこへ行って、なになにをとってきて欲しい。とかそんなおつかい程度のものだった。
「普通に頼めば良いのに、ちょっとめんどいよな。あの人」
どこで売っているのか見当もつかない独特のプリントがされたTシャツやタンクトップに、サルエルパンツのような、ゆったりとしたパンツ。一応、飲食店だから手首や指先のアクセサリーはしないが、眼鏡やバンダナ、ネックレスは拘って、甘利(あまり)一生コレクションなるものがあるくらいだ。
それでいて、店で扱っているのはカレーやエスニックではなく、降旗が三度の飯より好きなパフェだから始末が悪い。
「いやー、お店が全体的にアジア風だったからここだとは思いませんでした」
新規の来客には必ず言われる一言で、降旗も「ですよね」と苦笑いを浮かべる。あとはカレー屋とかアジアやアフリカ雑貨の店だとか、とにかく別の店だと勘違いして飛び込んでくる客もいる。
だが、それは甘利のパフェを頼んで食べるまでのことだ。
「か、神だ……!」
「とにかく美味い、ヤバい、それしか言えない!」
「まさに神の味! いや、甘利氏が神だ!」
等々。称賛絶賛の嵐で、降旗も大学生になってもバイト、特にバイトの中でも接客はしないと誓っていたのに、賄いと社割目的で『ヴィナーヤカ』の店員として働いていた。
「分かりました。ヴィナーヤカ・スペシャルとロワイヤルとエクストラを含む全メニューを作ってもらえるなら……」
「うぅ、スペシャルやロワイヤルのみならず、エクストラまでもっ!!」
電話の向こうで降旗には分からないが、多分、これでもかとオーバーなリアクションをしているのだろう。降旗が「無理ならお断りします」と言うまで甘利の賑やかな声がスマートフォンのスピーカー越しに聞こえていた。
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