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第2話(番外編)

「か、鑑定士って……あの!」 「ええ。『あの』とか、『どの』とかは分かりかねますが、世間で言われるところの鑑定士に相違ございませんよ」  知的で品の良い笑みを浮かべ、蓬莱はまた下駄の転がるような柔らかな声が響く。甘利とは比べると、甘利とはまた違ったベクトルで変わった人だ。ただ、着ているものの色合いや語り口が穏やかなせいか、遥かにまともな人のようだった。 「あ、すみません。俺、まだ学生で名刺とかなくて……降旗万貴って言います」 「ご丁寧にありがとうございます。もし、降旗様がよろしければ、袖振り合うも他生の縁と申しましょう。少し見せていただいても構わないでしょうか」  蓬莱は降旗の名乗りをご丁寧に、と言ったが、その何倍も蓬莱の方が丁寧だと降旗は思った。 「別に構いませんよ。俺から見ると、ガラクタとかよく分からないものばかりだと思うんですけど、それでも良ければ」 「ありがとうございます、拝見します」  それから、蓬莱はまじまじと1つ1つの商品を見ていく。品定め、というよりは吟味といった方がしっくりくるかも知れない。そして、蓬莱の柔らかいが、鋭さのある審美眼は降旗に捕らえる。 「な、何か?」  蓬莱の所作に勢いがある訳ではない。どこまでも優雅で、男性にも関わらず、はんなりという言葉さえもさえ似合う。 「失礼。貴方にも値札がついてありますね」  降旗の首の裏に蓬莱の腕が伸ばされ、羽織へ描かれた桔梗が散るように揺れる。降旗の首の裏には朝、慌てて下ろしたTシャツについてあった値札がタグにひっかかっていた。 「500円、ですか?」 「あ、いや……これは……」  先程、品定めというよりは吟味といった方がしっくりくるといった目線は吟味というよりは一目惚れしたようなものになっていた。 「何かを買い求めるというのは恋に落ちると同義なのかも知れないですね」  蓬莱は袂の財布を取り出すと、きっちりと500円を出す。小銭を用意しようと、バタバタしていたこともあり、降旗の全身は赤い絨毯の上にあった。 「ええか? 絶対やで?」  と、似非関西弁を喋る、朱色が多めの7色のタイダイ染めのTシャツに白いペンキを散らしたような黒のサルエル風のパンツの男。一瞬だけ甘利の笑顔が脳裏に過り、蓬莱に買われてしまった降旗は初秋の柔らかく晴れた空に視線を向けた。

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