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第1話(番外編)
番外編
※甘利×降旗ではなく、蓬莱×降旗なので、注意してください。
木の幹に立てかけてあるガネーシャの描かれたスケッチブック。
置かれているものはどこから手に入れたのか分からないバンダナや秋冬用の衣類を皮切りに鏡や食器のような実用品。誰が書いたか分からない旅行記や楽譜の類。統一感は最低限ありつつも、やや乱雑に置かれていた。
「じゃあ、まきまき。ちょっと出てくるけど、1つだけ注意してな?」
と、朱色が多めの7色のタイダイ染めのTシャツに白いペンキを散らしたような黒のサルエル風のパンツ。普段はつけない臙脂のストールと木製のブレスレットを2つ、3つ程つけている。
男の名前は甘利一生で、緑の絨毯へ腰をかけていたのを立ち上がると、そそくさとサンダルを履いた。
「ええか? 絶対やで?」
甘利は何故か、関西弁で降旗へ念を押す。甘利が降旗へ言ったのはたった1つ。
それは腰をかけるのは必ず緑の絨毯だけで、赤い絨毯の上は座るのはおろか、全身を乗せないというものだった。
「完全に赤い絨毯に乗ってしまうと人だって関係ない。まきまきは買われてしまうからな」
降旗は「そんなばかな……」と思ったが、いつになく、甘利が真剣なため、一応は気をつけていた。だが、人は次々と来て、足元という些末なところまでは気が回らなくなる。しかも、比較的金額の安いフリーマーケットで福沢諭吉を出すような、俄かには神経を疑う客が1組ならず、2組3組と現われ、小銭の補充に追われる。
「ご盛況のようですね」
下駄を転がした時のような、軽やかに響く男性の声。
裏刷りで桔梗を上品にあしらった紫の羽織とグレーの着物に袖を通した男は降旗に「失礼」と笑った。
「私は蓬莱という者です。隣で商いをさせていただいておりまして、失礼ながら先程まで貴方がたを見ておりました」
蓬莱は着物の袂から名刺入れを取り出し、1枚の紙面を降旗へ渡す。「俺、名刺、持ってないけど、良いのかな」と思う間もなく、降旗は「あ、どうも」と受け取る。
滑らかな草書体で『長月堂店主/美術鑑定士 蓬莱千秋』とあり、「鑑定士」という文字が降旗の目に飛び込んできた。
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