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番外編 リクエストお題『おそろい』

「航汰、それどうしたんだ?」  キッチンに立つ航汰の新調したエプロンを見た華が、驚いた声を寄越した。  すぐに気付いて貰えたことが嬉しくて、弛みそうになる口許をどうにか引き締める。 「ずっと探してて、ネットでやっと見つけたんだ」  今日は華への夕飯サービスデー。  この日に合わせて、航汰はずっと欲しかったエプロンを用意していた。  裾にチューリップとウサギの刺繍が入った、クリームイエローのエプロン。  男の航汰が身につけるにはあまりにも可愛すぎるデザインのこのエプロンは、華がいつも保育園で着用しているものとお揃いなのだ。 「言ってくれれば、買っておいたのに」 「華先生は絶対そう言うと思ったから、意地でも自分で探そうと思って」 「……それだと、駄目なのか?」  航汰の返答に、華が不可思議そうに軽く首を傾げる。  華に相談していたら、毎日ネットで探す必要なんて無かっただろうし、優しい華のことだから、航汰が「欲しい」と言えばきっと用意してくれたに違いない。  けれど、それじゃあ何の意味も無いのだ。 「駄目だよ。だって、これは予行演習みたいなモンだから」 「予行演習……?」 「そう。数年後のシミュレーション」  航汰の夢は、華と同じ保育士になって、二人が初めて出会った『あおぞら保育園』で共に働くこと。  華はまだどこか、航汰が勢いで言っているのではと思っているところがあるので、自分の本気をちゃんと示したかった。  数年後には、お揃いのエプロン姿で隣に立っていたいのだと。 「俺が保育士になったら、華先生と毎日同じエプロン着けて、一緒に子供たちと遊ぶんだよ」  敢えて希望形にはせずに、航汰は華の目を見て言い切った。  子供の、ほんの一時の気紛れなんて思われたくはないから。  少しの間、面喰らったように目を瞬かせていた華が、やがて「参った」と苦笑した。 「これからは、園でエプロンを着けるたびに、航汰を思い出す」 「その内、思い出さなくてもそれが当たり前になるから」 「俺も、慣れる為に、予行演習が要るな」 「そんなこと言うと、今以上に通い詰めるよ」  歩み寄ってキスを強請ると、華が遠慮がちに長身を屈めて応えてくれる。 「……まだ時間が掛かりそうだから、料理するとき以外は、外しててくれ」  キスの合間に困り顔でそう懇願する強面の恋人は、今日も変わらず優しくて愛おしい。

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