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01 眉間にキャンディをくれてやる

 黄昏時、アパートメントの2階からは仮装をした人々の行進がよく見える。  アンディはそれに目もくれず、赤色の目に喜びを滲ませてオーブンを覗いていた。  焼き上がりを待つ至福の時間を邪魔するように呼鈴が鳴り、アンディはドアを開けずに外に呼び掛ける。 「誰だ?」 『Hi!Trick or Treat!』 「うるせぇ消えろ」  錆びたドアをガンッと蹴りあげて威嚇するが、外の人間は陽気な声で菓子をねだり続ける。  ドアスコープを覗くとフードを目深に被った知らない男が立っており、身体を揺らし舌足らずに喋る様子から、ハロウィンで浮かれた酔っぱらいだと推測した。 『Ohhh yeah!Happy Halloweeeen!』 「チッ……クソ野郎が」  一、二発殴って外に捨ててこようと思い鍵を開けると、男は扉に突進し部屋へ押し入ってきた。 「くっ……!?」  突き飛ばされ体勢を崩すアンディを、男の金色の目が見下ろす。 「Trick or Treat?」  先程とは打って変わって低い声を出す男が、手にしたコンバットナイフでアンディを切り付ける。  風切り音と共に、ギリギリで回避したアンディのプラチナブロンドがはらりと床に落ちた。 カチャッ 「眉間にキャンディーをくれてやろうか?」  アンディは素早く腰のリボルバーを抜き、男の額に照準を合わせた。  動揺もせず冷たい視線を向ける。 「ドロシー・フローレスを殺したのは、お前か?」  劣勢だというのに、男は怯むことなくアンディに問いかけた。 「ドロシー?お前ドロシーおばさんを知っているのか?」 「質問に答えろ」 「ロックフォードのはずれに住んでたミセスの事だろ?お前は彼女の何だ」 「……彼女は家族……みたいに大切な人だった」 「俺もだ。彼女を実の母親よりも愛していたよ……俺だって彼女を殺した奴を知りたい。本当さ、信じてくれ」  宥めるように言うアンディに男は殺気を和らげるが、お互い凶器を向けたまま緊張が続く。 「この香りは?」  男はハッとして、キッチンから漂ってくる芳ばしい香りに気が付いた。 「彼女が得意だったパンプキンパイさ……良かったら食べていかないか?」  襲ってきた奴にこんな誘いをするのはおかしいが、アンディはドロシーを知る人物に出会えたことに僅かに高揚していた。  男はとうとう視線を外し武器を納めた。 「……お前がロックフォード育ちの亜人だと知ってな、それだけで疑って悪かった。少し気が立っていたんだ」  決まりが悪そうに言う男に対し、アンディはやれやれと溜め息を吐く。 「苛ついて人にナイフを向けるとは、とんだイカレ野郎だな……名前は?」 「ジャン、人狼だ」  男はそう言いながらフードを下げ、獣の耳を晒す。 「俺は吸血鬼のアンディ」  アンディは小さなコウモリの羽を広げ優雅なお辞儀を披露した。

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