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第1話
───水曜日の五時間目、古典の授業。
昼食を食べた後、春の暖かい陽射しが生徒たちの眠りを誘う。
教師の声も子守唄となって、半ば、うたた寝の時間になっている。
そんな中、この俺、新井 信太郎はこのクソ眠たい授業から抜け出す計画を実行しようとしている。
必死で勉強して辛うじて入った進学校、その中で成績は中の下と言ったところだ。
世間一般からみればそれほどバカではないのだろうけれど、この学校では勉強が出来ない方の部類に入る。
おっと、話がそれた。
俺はトイレに行くふりをして、授業をサボるつもりでいる。今ハマっているRPGのゲリラクエストが、この時間にしかやっていないのだ。
ここでしか手に入らないレアアイテムが出るそうなので、この機会を逃すわけにはいかない。
幸い、古典の山中はそういうことに関してとてもユルい。生徒に関心がないだけなのかもしれないが。
スマホはズボンのポケットの中。お腹を軽くさすりながら。
「先生、お腹いたいのでトイレ行っていいっすか?」
「あー。いってこい。
あ、言っとくが、先生はトイレじゃないぞ?
ハッハッハッ!ああ、トイレと言えば昔‥‥‥‥‥‥」
でた。山中じぃさんの昔話。先生はトイレの下りで滑ったのに、まだ続ける気か!!
俺は教師のおもしろくもない昔話を半ば強制的に聞かされているクラスメートに心の中で詫びてから、教室を出る。
よし。脱出は成功した。
俺は三階の東トイレに駆け込む。
個室の一番奥の扉めがけて走る。
──鍵が閉まってる・・・?
一番奥の個室には先客がいたようだ。
先客に俺の存在を勘づかれぬよう、抜き足差し足忍び足で個室に入り、ドアの鍵をそっと閉めた。
スマホを取り出そうとポケットに手を入れた直後
「‥‥んっ‥‥あっふ、ぅん‥‥‥‥」
ん、何だ?喘ぎ声‥‥だよな?
いや、幻聴か?確かに最近ろくにヤッてなくてたまってはいるけど‥‥。
「んっ、んぅぅっ!!ぁ、ふぁ‥‥‥‥」
うわぁ、声抑えてるのが妙にリアルだ‥‥。
どうやら隣の部屋で、誰かがオナっている模様。授業をサボってなにヤッてんだよ!
俺が言えたクチじゃないけどさぁ。
「ンッ‥‥あ、ぁぁ、ぅ、い、く、ああぁっ‥‥!!」
え、イッた?イッちゃったのか。
てか、なんで俺はこんなに聞き入ってんだよ‥‥
「ンンッ、ぁ、ふぁぁ‥‥っ!っっ‥‥」
え、まだ続けんの??
元気だなぁ‥‥
俺は、この喘ぎ声の主にすっかり感心していた。
そして、この声の主が誰なのか、本当にオナニーをしているのか、気になって仕方がないのである。
俺は個室からすり抜け、一番奥の個室へと向かう。
どうやって覗こうか。下から‥‥は、無理があるな。よし、上から行こうか。
俺は上から覗くぞ作戦の決行を心に決め、鍵の部分に足を掛ける。
ドアに手をつき、上体を揺らして勢いをつける。
よし。鍵に置いた足を軸に上体を持ち上げて、上から覗く。失敗は許されない。気づかれたら即終了だ。
いくぞ。せーの!!
ガタッ
う、うまくいったーーー!!
俺は上から個室を覗く。
そこにいた奴を、俺は見たことがある。名前も知ってる。
しかし、そいつが今していることがあまりにも奇妙奇天烈だったため、思わず問うてしまった。
「お前、なにしてんの?」
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