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第10話

(side吉岡) それからというもの、僕ら二人に進展はない。新井は、僕とすれ違うと笑いかけてくれるが、僕はというと、諸々のいかがわしいことがフラッシュバックして、居ても立ってもいられなくなる。 授業をサボることもなくなったが、背徳を含んだあの鮮烈な快感は、忘れられないままでいた。 そろそろ中間テストも近いので、本腰をいれて勉強を始めようという時期。 色恋沙汰に浮かれるのは後回しにしようと、ひとり決心し、問題集を開く。 そんなとき、教室のドアが空いた。 教室には僕以外にも勉強をしている者が何人かいた。 皆、一斉に扉のほうを見る。 そこには、新井の姿が。久しぶりに見た新井は、やっぱりイケメンで、キラキラしていた。 「吉岡いた!なあ、勉強教えて?」 新井を見ていたクラスメイト達が一斉に僕をみる。 え、そこの二人、仲いいの‥‥?と言わんばかりの視線。 僕だって不釣り合いなことは承知なんです。だからそんなに見ないでください‥‥。 僕は一旦、教室の外に出て、新井の話を聞く。 どうやら、テストの点数が悪いと、親にスマホを取り上げられてしまうらしい。 「だからさ、勉強教えて!一生のお願い‥‥」 ぐう‥‥イケメンのおねだり、強い。こんなの承諾せざるを得ないじゃないか。 「わかった。わかったから、頭をあげてくれ‥‥」 「マジ?!教えてくれる!ありがと~ お前、やっぱいいやつだな」 僕たちは新井のクラスの教室に移動する。僕のクラスと違って、新井のクラスは残って勉強している人はいなかった。 クラスによってここまで温度差があるのか‥‥? 「で、何を教えて欲しいんだ?」 新井が持ち出したのは、古典だった。源氏物語がどうにもわからないらしい。 正直言って少し意外だった。僕より恋愛偏差値高そうなのに。 本人に伝えると、笑ってこう言った。 「俺、彼女と長続きしないんだよねー。新井くん、私にあんまり興味ないんでしょ~って。こっちは普通に接してるし、彼女の好みも考えたりして優しくしてるつもりなのにな 女心ってわかんねーな って、いつの間にか俺の身の上話しちゃってた。ごめんな」 何故か、ズキッと心が痛んだ。新井の彼女の話なんて聞きたくないと思った。まるでこれじゃ、嫉妬してるみたいじゃないか。 なんと返していいか解らず、僕は黙ってうつむいた。 すると新井が僕の頭をポンポンと、軽く叩いた。 「そんな悲しそうな顔すんなよ。」 僕はうつむいたまま頷く。女の子にもこんな風にするんだろうなと、思考がどんどんマイナスの方へ向かっていく。 すると新井が、僕のあごをつかんで持ち上げ、ほっぺにキスをした。 「俺、吉岡のこと気になってるんだよね。その、恋愛的なイミで。女の子との話しした途端、そんなに落ち込んでさ。期待しちゃうじゃん?普通。」 至近距離で見つめられて、ひとたまりもない。 僕の心臓はもう、爆発してしまうんじゃないかってくらいにバクバクいってる。 「吉岡は、どう思ってるの‥‥?」 今度は少しあざとい高めの声で聞いてくる。そんなの、反則だー! 僕は何も言えずに、新井を見つめる。少しだけ口をすぼめて、キスを待つように。

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