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第7話

郁人はタクシーを拾い一聖の家に向かった。 一聖と朱鳥も知り合いだったのか? 晶といい一聖といい、自分の知らないところで朱鳥と知り合いになっていたんだと思うと悔しかった。おまけに一聖なんかに持ち帰られてしまったのが本当に腹が立つ。タクシーを降り、釣りも受け取らずに郁人は一聖の家に走った。 「おい! いるんだろ! 早く開けろ! 一聖!開けろっ!」 郁人はドアをぶち破る勢いでどんどんと叩く。程なくしてうんざりした顔をした一聖が上半身裸の姿でドアを開けた。 「そんな大声出さなくても聞こえるっつうの!」 近所迷惑だと言い一聖は今にも殴りかかりそうな剣幕の郁人を部屋に迎えた。 郁人は部屋に入るなり奥のベッドに魔女の格好のまま横になっている朱鳥を見つけた。 「お前っ……!」 「うるせえ、まだ何もしてねえよ。あいつ酒弱いのにあんなの飲むから……」 「まだ……って、手ェ出すつもりで連れてきたんか? あ? お前シャワー浴びてんな? やる気満々かよ! ふざけんな! 朱鳥ちゃんは俺が狙ってたんだよ、出てけよ!」 「ここ俺んちだよバーカ、お前が出てけ」 朱鳥を起こさないように、二人して小声で罵り合う。 「そもそもお前、あいつのことなんも知らねえだろ? 俺の方がずっとあいつのこと見てきたんだ。いきなり出てきてふざけんなよ……人の気も知らねえで」 ふと垣間見た一聖の顔は今にも泣きそうに見えて、驚いた郁人は一瞬怯んだ。いつもやり合ってばかりの一聖のこんな表情は見たことがない。一体何なんだ? と呆けてる隙に一聖はベッドに寝ている朱鳥に覆いかぶさるようにして頬を撫でた。「朱鳥? 起きろ」そう言ってキスをしそうな程顔を近づける。薄っすら目を開けた朱鳥が極々小さな声で「郁人?」と言ったような気がした。 「……郁人来てる」 「………… 」 朱鳥が「郁人」と呟いた? 聞き間違いか? 一聖の「郁人来てる」の言葉に朱鳥はさっと背を向けた。その背に一聖はもう一度何やら小声で話しかけているようだった。 「何なんだよクソっ、勝手に話せ。俺は向こう行ってる……」 一聖は苛つきながら郁人の肩を思いっきり小突き隣の部屋に移動した。郁人は半分訳がわからないまま朱鳥に近づく。 「朱鳥ちゃん?……もしかして俺のこと知ってる?」 恐る恐る振り返る朱鳥は、酒のせいなのか別の理由からなのか、真っ赤な顔をして郁人を見る。小さく頷き朱鳥は両手で郁人の頬に手を添えた。吸い込まれるようにして郁人は朱鳥に口付ける。いきなり俺は何をしてるんだ? とキスをしてから慌てて離れたけど、何故だかやっぱり郁人も朱鳥のことは以前から知っているような懐かしい気持ちになり、もう一度、今度は深く唇を重ねた。愛おしさが湧き上がり思わずそのまま抱きしめる。意外に骨張ったその体つきに一瞬躊躇った瞬間、朱鳥の口から「ごめん」と溢れた。初めてはっきり聞いた朱鳥の声。その声は郁人のよく知った声だった。 「え……? 嘘」 綺麗にメイクが施されている美しい顔。カラーコンタクトや付けまつ毛までして女の子らしくなっているその瞳に涙が浮かぶ。郁人は恐る恐る朱鳥の髪に手を掛け、撫でるようにしてウィッグを外した。 「あ……きら? え? 何で?」 目の前にいたのはいつも一緒にいて、今日だって主催者としてパーティーの会場にいたはずの晶だった。「騙すつもりじゃなかった」と取り乱す晶に、混乱しながらも泣かれるのは嫌な郁人は晶をそのまま抱きしめる。郁人の知っている晶はどちらかと言えば冷静沈着なクールな男だ。その晶がこんな姿になっているのは信じられなかったけど郁人は「騙された」とは全然思わず寧ろこんなに惹かれた理由がわかって納得をしていた。 「晶、知らなかったとは言えごめんな。俺お前にキスしちまった。嫌だった?」 郁人は自分が晶にキスをしてしまったことを詫びた。郁人自身は晶にキスをした事実は全然嫌じゃなかったものの、された晶は嫌だったからこんなに動揺しているのだと思ったから。 「違うんだ、そうじゃない。キス、嬉しかったんだ……好き、だから」 消え入りそうな声で晶は郁人にそう言った。好きだと言われ、目の前にいるのは朱鳥ではなく晶だというのに郁人は恋が実ったかのように嬉しくなった。今の状況は混乱の極みなはずなのにやっぱり郁人は嬉しくて、勢い余ってその場で晶に告白をした。 「俺も好き! びっくりしたけど……多分好き。付き合ってみる? てか俺と付き合ってください」 「嘘だ! 馬鹿じゃねえの? お前まだ酔ってんだろ……そんな簡単に、そんな事……言うなよ」 晶は郁人の軽さに腹を立てるも、涙が止まらなくなってしまい両手で顔を覆う。郁人は今迄男女問わず沢山告白をされてきた。でも郁人が自分から「好きだ」と告白をしたことがないのを知っていたから、ましてや男の自分に告白をしてくれたという事実が晶にとっては怖いくらいに嬉しかった。 取れたウィッグをまた晶に被せ着替えるまでは朱鳥の姿でと、郁人と晶は一聖の部屋を後にする。「こうしてるとほんとカップルみたいだな」と楽しそうな郁人に肩を抱かれて晶と郁人は輝樹の待つパーティー会場へ戻った。

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