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「ちょ、待てって…!」 返事をしない俺に焦れたのか、半ば強引に引きずられて雑踏の中を進む。 夕方の新宿でそんな俺達を気にする人は誰も居ない。あっという間に細い路地に連れこまれた。 「ふ、ざけんなよ!何考えてんだ……!!」 勢いよく壁に叩きつけられ、痛みで顔をしかめる。足元に転がる空き缶が大きい音を立てて。 「…あんまり暴れない方が身のためですよ」 ぐい、と掴まれた顎が痛い。眉を寄せて睨みつければ、冷え切った瞳とぶつかる視線。 この男をここまで変えられる影響力を持っているのは、芹生くん。当たり前の事実を改めて突きつけられた気がして、胸の奥が軋んだ。 「さっきは抱いたんですか?それとも抱かれた?…まあどっちでも良いか」 ぽつりと呟き、Tシャツをたくし上げた手のひらが脇腹に触れる。少し体温の高いそれに、中途半端だった熱が再び燻るのを感じて。 このまま流されてしまえ、と頭の片隅で声がする。快感に正直な身体は、明らかに目の前の彼を求めてしまっていた。 でも、今は触られたくない。 恐らく…芹生くんのことだけで、俺のことなんて微塵も考えていないだろう状態の、こいつには。 「だ…から、やめ、ろ…っ!」 両手で胸板を押すが、鍛え上げられた体はびくともせず。逆に手首を掴まれ頭の上でまとめ上げられてしまう。 「…分かりました。"友達"とするのが嫌なんだったら、」 ―――セフレ、ってことで 脳内で重なる少し低い声音。心の奥底に押し込め、蓋をしていた記憶が一気に流れ出す。 耳元で大きい鐘を鳴らされているような感覚。揺れているのは地面か、自分か。頭が割れるような圧迫感に、喉元まで出かかった悲鳴は行き場を無くして絡まる。閉じた瞼の裏に散る火花、上手く呼吸ができない。 漠然と死の気配を感じた。

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