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25.
ゆるゆると瞼が上がって、視線が絡む。
「…大丈夫、ですか」
「あー…なっさけねえ所、見せたな」
苦笑しながら頭を掻く姿はいつも通り。
深呼吸した俺も、ようやく冷静になれた気がする。
「ええと、さっきの話……」
無しにしましょう、と。謝ろう。
そう思ったのに。
「…良いよ、なってやる」
理解するのに数秒かかった。すっと立ち上がった彼を、呆然と目で追って。
「あと…芹生くんとは、何も無い。ルイとのことで協力しようと思って、痕付けたけど…泣かれたから、それだけ」
俺の方を向いて話す、ハルさんの顔は影になってよく見えない。それだけ言い置いてくるりと背を向けた。
ホテルに入ったからと言って、必ずしもそうなるわけじゃない。なのに俺は、勝手に思い込んで。
脳裏に蘇る弱々しい姿。
酷いことをしたと、思う。
何に対してあんなに腹を立てたのか、未だに分からないまま。彼のことになった途端、駄目になる。そんな自分が嫌で、もどかしくて。
「…っ…く、そ…!」
目の前の空き缶を、握り潰した。
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