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あれから何日か経っても夢見が悪く、まともに寝られていない。 過去に受けた傷はとっくに治って、跡形も無いのに。 (……心の傷、かぁ) こんな詩的な表現は絶対に使わないと思っていた昔が懐かしい。 たった一言で、また過呼吸に陥ってしまうほど。それだけ俺の中で、アイツの存在は大きかった。 どことなく雰囲気の似ている彼―――細田くん、に言われたからというのも関係しているだろう。 あれを見て流石に引いたのか、全く音沙汰はなくて。今日まで結局連絡できないまま。 今、俺の荒んだ心を癒してくれる存在はあの子しかいない。ルイとのその後も気になる。 「もしもーし」 『あ、ハルさん?お久しぶりです!』 電話口の向こうで柔らかく微笑む芹生くんが想像できて、少し気が楽になった。 『連絡できなくてすみません、色々バタバタしてて…』 「気にしなくていーよ、ルイとは仲直りできた?」 『はい、おかげさまでまた友達に戻れました!今度ハルさんにも何かお礼させてくださいね』 (うーん…"友達"、か…) ルイもなかなか大変そうだ。 『それで、えっと……あの、ハルさん…大丈夫ですか…?』 何度か言いよどんで、静かに落とされた疑問符。明確ではないそれに、虚をつかれた。 「……んー?何が?」 不自然に間が空いてしまったが、声音は上手く平静を装えていただろうか。 『いえ、なんとなく…少し元気がなさそうだったので。違うなら良いんですけど』

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