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56.
「…そんなことだろうと思ったよ」
呟いて枝豆を手にした。重ねるのは、自分。
「まぁ…近くに居たら諦められないっていうのは、分かる」
明後日を眺めて独りごちれば、無視できない視線が突き刺さった。問うようなそれに、淡く笑って。
「…ん?あぁ、セフレなんだわ。…細田と」
「え……細田、くんって…」
目を白黒させるルイも、会ったことがあるはずだ。切れ長の瞳に端正な顔立ち。
「……ルイはさ、芹生くんと付き合いたい?」
混乱のさなかにいる彼を見据えた。ひどく真剣な声音に釣られたのか、しばし黙考した後にこくりと頷く。
「そりゃ…叶うなら」
「だったら諦めるな」
ほとんど間を開けずに放った言葉。どうしても他人事のように感じられなくて、力の籠るそれを受けた彼は。思わずといった体で瞬いた。
「…俺にはもう、可能性がないからさ」
誤魔化すように口元を歪めて笑う。
今は何も聞いて欲しくない。物言いたげな様子のルイは、やがて静かに残りのビールを流し込んだ。
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