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57.
年が変わって、数週間。
『橋本さん、初詣行きました?』
きっかけは細田からのメール。何故かそのまま話が進み、少し遅めの初詣へ行くことに。
「急にどうしたんだよ、初詣なんて」
「いやー、今年まだでしたから」
電車を待つ間、隣の長身と会話する。自分も済ませていなかったから良いようなものの、もう初詣に行っていたら。もし、予定が合わなかったとしたら。
(……別の奴、誘うんだろうな)
自分で自分を苦しめる答えに至って、思わず細くため息を吐く。幾重にも巻かれたマフラーに消えたはずのそれを聞き咎めたのか。
「橋本さんと行きたかったんです」
え、という呟きは音にならなかった。斜め右上の紫黒 を呆然と眺めて。
「…電車、来ましたよ」
緩く掴まれた手首が熱い。
いつの間にか形を変えて繋がる手のひらに気付いたのは、車内に入って随分経ってからだった。
滞りなく初詣を済ませ、帰路を辿るべく再び電車に乗り込む。
「…あ、そういや。この前言った撮影の様子、今月末に放送されるって」
「本当ですか?録画しておきますね」
クリスマスの少し前、店にテレビ撮影の依頼が来た。宣伝になるということでオーナーは快く了承し、ナンバーワンの俺も当然駆り出されたという訳だ。
昼前になり、行きよりも混み出した車内で吊革に掴まる。異なる路線が集まる大きい駅で乗り込んで来た大量の人々。無遠慮に詰められる空間のせいで、細田と離れ離れになってしまった。
自分達が降りる駅まではまだ遠い。ツイてないな、とぼんやり考えていると。
(……っ、!?)
ほんの僅か、的確な意思を持って臀部に触れた何か。振り向いてもスマホを操作する女性やうつらうつらと揺れる男性しか視界に入らない。
気のせいか、と向き直ったところで次の駅。反対側のドアから乗り込んでくる大勢の人間に舌打ちしたくなった、その瞬間。
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