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ぐに、と揉まれた臀部。間違いなく、 (痴漢……?マジかよ…) どこからどう見ても自分は男だ。世の中には物好きも居るものだと悠長に構えていられたのはそこまでだった。 「……っ、!」 するりと前に回された手のひら。腰までのコートの裾を割って入るように動いたそれは、遠慮なく股間をまさぐって。 「て、め―――」 頭に血がのぼるのに任せて、勢いよく振り向こうとしたその時。 「…ハルくんでしょ?『Ash』の」 ひそりと耳朶に忍び込んだのは、ここで聞くと予想もしていなかった単語。固まる俺に気を良くしたのか痴漢野郎は楽しそうに笑った。 「やっぱりそうだ……ふふ、ナンバーワンのキミが…男に触られて勃たせてるなんて、バレたらまずいよねぇ…?」 少し高めの粘着質な声音がこの上なく気持ち悪い。殴り飛ばしてやろうかとも思ったが、店の名前とこちらの素性が知れている以上、下手に荒っぽく動くのもはばかられる。 「…くっ、そ……!」 だからと言ってこのまま毒手に甘んじるのもごめんだ。何か策は無いかと考える最中(さなか)も、這い回る男の手。 「ああ、あぁ……可愛いなぁ…ここも触って欲しそうにしてるよォ…」 「っ、ひ…!?やめ、……!」 興奮した鼻息が耳にぶつかるのと同時、ズボン越しに押されたのは双丘のずっと奥に存在する窄まり。こいつが知っているか定かではないが、陰茎を直接触られるよりもこちらを探られる方がずっと堪らない気持ちになってしまう。 「ま、……っ、ん、ん…」 「あれぇ…?もしかして、キミ…」 言うな、と念じたのが功を奏したのか、続きは下卑た笑い声に変わった。 「…じゃあたくさん触ってあげるね」 制止の手をいとも容易く振り切って、無情にも後孔への愛撫が開始される。すりすりと触るだけの動きからぐっと押したまま左右に拡げられ、漏れそうになる声をどうにか紛らわせた。 「すごぉくえっちな顔してるよ~ハルくん」 罵ってやろうにも、噛み締めた唇を解いてしまえばあられもない声が丸聞こえだ。羞恥と悔しさで滲む視界。 緩急を付けながら押しては離れ、トントンと指先で刺激を受け続けるうちに、断続的な快感が身体を震わせる。これは駄目だ、と慌てる思考を無視して、蕾が開きかけた。 瞬間。 『次は―――…駅。お出口は右側です。お降りのお客様は……』 「…おいこらオッサン」 こちら側のドアが開く、という天の救いにも似たアナウンスに被った低い声。周りの誰かが助けてくれたのだろうか、とその方向を見やって。 「な、なんだお前は!」 「なんだじゃねえよ変態野郎。……人のモンに手ぇ出しやがって」 「…ヒィ……!」 未だかつて見た事のない形相を浮かべる、細田。 開いたドアから痴漢の背を乱暴に蹴り飛ばし、無様にホームへ転がったところを通り掛かった駅員に引き渡した。 一連の流れをぼんやり見つめていれば、バサリと降ってくる何か。 「それ着て座っててください」 どこか怒った様子の彼が投げて寄越したのは、自らのロングコート。 それはそうだ。こんな面倒に巻き込まれて、腹が立ってもおかしくない。 落ち込んだ気分のまま、近くにあったベンチへ腰掛ける。すると緩く頭を撫でられて。 驚きながら見上げた先に、もう彼は居なかった。

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