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59.
かなり大きいそのロングコートで肩から爪先までしっかり覆って、線路を眺める。
15分…いや、20分は経った頃。
先の階段から戻ってくる細田が見えて、思わず息を詰めた。
何を言われるだろうか。
[電車であんだけ触られるとか無防備すぎ。警戒心ねえの?]
[男のくせに痴漢されるんだな]
どうせこのあたりで笑われるのが関の山だろう。自分で想像しておきながら、じわりと視界が滲む。
平気だと思っていたあの行為は、思った以上に堪 えたらしい。
「…悪い。迷惑、かけて」
ようやく絞り出した声は、隣へ届く前にみっともなく震えてしまった。誤魔化すように握りしめたコートからふわりと香る、細田の匂い。
固く閉じた指を1本ずつ剥がすようにそっと開かれ、乗ったのは温かいココアの缶。
驚いて見やった先の彼は、何とも言えない表情を浮かべている。途方に暮れたような様子のまま、ゆっくりこちらに伸ばされた手。
反射的に身構えた、けれど。
「すぐ、気付けなくて…すみませんでした」
指の背で緩く頬を撫でられ、気付けば腕の中に。置かれた状況を理解した途端、どうしようもなく目頭が熱くなって。
普段なら、絶対に押し返す。
でも、
「…ほ、そ……っ、」
「居ますよ、ここに」
「っ……ぅ、え…」
抱き留めてくれる腕があまりにも優しくて。覆ってくれる体があまりにも暖かくて。
久しぶりに、人前で涙を流した。
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