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purchase of ALBA Ⅰ

 都心の郊外に明治時代に建造された華族の迎賓館。  木枯らしの吹く季節に、この迎賓館の持ち主である一族・朴澤(ほうざわ)家が主催する社交パーティーが煌びやかに開かれた夜だった。  主催者の一人、朴澤家嫡男にして国の大財閥である「朴澤グループ」の次期総帥とも云われている朴澤理仁(マサヒト)はホストとしてゲストに挨拶周りをしていた。 「朴澤社長、本日はお招き頂き感謝します。」 「これはこれは、羽場(はば)社長。」  シャンパン片手に理仁に近付くのは、理仁が取締役社長を務める「朴澤商事」の大手取引先の社長である羽場だった。以前会った時に比べて額の面積が広くなり白髪も見受けられた。相変わらず恰幅がよく、理仁は密かに触れること接近することに嫌悪を感じる人物である。 「御社の業績は今や業界を掌握してるようで、いやはや、若いのにやり手だと皆言っておるよ。」 「恐縮です。」  当たり障りのない世辞で会話を進めていると、羽場は脂っこい顔をずいっと急に近づけてきた。ここで退くのは失礼な行動になると理仁は我慢をした。 「ところで、君は『アンジェラス』という外商を知ってるか?」  聞いたこともない固有名詞だった。ましてや外商など、理仁の母が本宅で百貨店の外商を頻繁に呼びつけ利用しているだけで、理仁自身は利用したことがない。  羽場の質問に「いえ」と首を振って答えると、羽場は下卑(げび)た笑みを浮かべた。 「君も社長に就任して1年が経った、そろそろアンジェラスの顧客になって見ては如何かな?」 「あの…それはどういうことでしょうか?」 「アンジェラスは選ばれた者にしか利用出来ない、情報もこうして社交界で口々にしか伝えてはいけない。ここの顧客になることは、この世界で選ばれた者になったという証だ。」  そう言いながら羽場は理仁の着るジャケットのポケットに1枚の紙を忍ばせた。 「君は私が選んだ、成功者だよ、朴澤社長。」  それは悪魔のような囁きだった。  パーティーが御開きになって、ゲストを送り出したのち、理仁は自室で1人、羽場から貰った名刺をよくよく見た。 「外商サービス、『angelus(アンジェラス)』…ね。」

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