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Ⅱ
「あーーーーーーーーーー暇だーーーーーーーー。」
東京都中野区、中野駅から徒歩15分ほどの場所にある雑居ビルの一室。
とあるサービス業を営む小さな事務所で社員は暇を持て余していた。
「暇だー、じゃないですよ。俺に仕事押し付けて、ちょっとは手伝ってください。」
「だってぇ、俺そんなソフト使えねーしー。」
「じゃあ経費でア●バにでも通って下さい!」
「あ、暇じゃねーや。これからちょっとプロデュース業が…。」
「ソシャゲのイベント回してんじゃねぇ!」
ここは外商サービス『アンジェラス』の本部。
_angelus
この国で選ばれた高貴な身分の者のみを相手に商売をする外商サービス。
ホームページなどの窓口は存在しない。全て社交界での伝え噂で存在を知る。
財界、行政、様々な業界を牛耳っているような人物とばかり商談を交わしているというのに、社長を含めてたった4人で切り盛りしている。
午後0時になったと同時にスマホを起動して、アイドル育成ゲームのイベントを回し始めたイマドキな茶髪のツーブロックの青年は、ここの営業のエースでもある、三苫 亮太郎 、28歳独身、美少女アニメ大好き。
そんな亮太郎に仕事を押し付けられ、パソコンで画像編集の作業に追われている黒髪で平凡な顔立ちの俵 真智雄 、営業2年目の23歳独身、ラーメン大好き。
そして一番奥にある少し立派な机と椅子に座っている黒ずくめのヒョロガリな男。彼は亮太郎と真智雄の不毛なやりとりをニコニコと眺めながらブラックコーヒーを飲んだ。
そのコーヒーを飲み込んだ瞬間に、彼のパソコンにメールが受信された。クリックして開くと、ニヤリと笑う。
「ねぇねぇ、真智雄くん。」
「はい、何ですか社長。」
この黒ずくめの男こそ、『アンジェラス』の創業者で取締役社長の諸角 辰馬 、35歳、私生活は謎。スーツ、シャツ、ネクタイ、スラックス、手袋、靴下、革靴、鞄、全てが漆黒、そして左眼にモノクルを装着している、21世紀の日本では浮世離れした出で立ちの男だ。
そんな彼に真智雄は不貞腐れながら近づく。
「そろそろ真智雄くんも独り立ちしようか。明日行って来てね。」
「…え、俺……1人で行って来ていいんですか?」
「くれぐれも失礼のないようにね。」
「は…はい!頑張ります!」
「うん、声が大きいなぁ。」
入社2年目、これまで営業はずっと亮太郎についていってそれをサポートするというだけだったのだが、やっと念願の独り立ちを命じられて真智雄は張り切る。
「明日の午後5時に、『朴澤商事』の社長室だってさ。」
「え゛……それって、めっちゃデカい会社じゃないすか!」
「そうだよぉ。うちのお客様は霞ヶ関、赤坂見附、丸の内、銀座、最近は豊洲なんかにも多いの知ってるでしょー?」
「そうでしたー。」
「あ、帰りに東京駅のデパ地下に限定スイーツあるから買って来てくれないかなぁ?」
諸角は甘党だった。
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