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ⅩⅢ
主久は自分の部屋にルクスとゆっくりとした足取りで戻る。
ルクスはきちんと靴を揃えて部屋に上がり、主久にトコトコと遅れないようについて来る。その仕草に主久は愛らしいという感情から顔を綻ばせた。
ルクスは先ほどのスカイラウンジでの挙動を反省しているのか、目新しいタワーマンションの部屋をキョロキョロと見渡すことなく、主久の方を緊張しながら見るだけだけだった。
それに気が付いた主久はルクスの手を取って、先ほどと同じようにルクスの右手を自分の唇に当てて読唇させることでコミュニケーションを図る。
「きょ う か ら こ こ が き み の い え だ よ」
読み取ったルクスは嬉しさで目をキラキラと輝かせて主久を見上げた。クリクリの可愛らしい大きな目で見つめられると主久はつい恥ずかしくなって、少し横に視線を逸らす。ルクスの右手を繋いだまま、広いリビングにある大きな革張りのソファにつれていき、座るようにルクスを誘導した。
ローテーブルにあらかじめ用意していたノートと鉛筆を手に取って、主久は筆談をする。
『今日から一緒に暮らすのだから遠慮をすることはない』
そう書いてルクスに見せるが、ルクスは首を傾げて必死にその文字を読もうとしていた。
「……まさか…文字が読めない、のか?」
真智雄から最初に小学生並みの学識とは聞いていたが、あまりに予想外すぎて主久は「はぁ」と頭を抱えてしまう。その様子を見たルクスはまずいと思ったのだろう、主久が書いた文字の下に返事を書く。
『ごめんなさい しゅわはりょうたろうとよしえがおしえてくれた けどもじはぼくがわるいこだからおぼえられなかった』
かなり時間をかけて書いた3行の文章を渡された主久はショックを受けた。
一生懸命に書いた平仮名も所々間違っており、まるで幼児のような拙さだった。
(この感じだと50音の平仮名を覚えているだけ、あと数字くらいか……)
これから暮らしていく、この幼気な少年とどう向き合うか、もっと考えなければいけない、と主久は改めて思い、そこからは切り替えてルクスに合わせてコミュニケーションをとることにした。
『きょうはきみのことをおしえてほしい。きみのなまえは? だれがつけてくれたのかな?』
分かり易く全て平仮名で書くと、ルクスはスラスラと読めるようで笑顔が少しずつ戻る。そしてまた数分かけて返答を書くと、嬉しそうに主久に渡す。
『ぼくは るくす なまえはよしえがつけてくれた きぼうのひかりっていみだよって』
『よしえってどんなひと?』
『よしえはやくざさん だけどぼくをなんどもたすけてくれた らーめんがだいすき』
『やさしいひとだったんだね』
『ときどきこわいよ あとぼくのつくったごはんだいすきっていってくれた』
『りょうりがすきなの?』
『せいこがいっぱいおしえてくれた』
(せいこ? ああ…俵さんが言ってた商品を躾ける役目の人なのかな)
『きょうのごはん、るくすがつくってくれるかい? ぼくもるくすのごはんたべたいな』
『はい つくります』
『いまからいっしょにかいものにいこう』
今日の仕事を任されたルクスは主久に満面の笑みを向けた。主久は微笑んでルクスの頭を優しく撫でた。
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