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プロローグ

『おい。どーした?可愛いちっちゃな手を真っ赤にして』 雪が積もるような寒い冬のことだった。1人で外に立っていると、その人はやって来た。自分が寒空の中1人でいることにビックリしたらしい。真っ赤に染まった僕の手を見て、痛々しそうに顔を歪めた。 そして、随分大きな手で僕の手を包むと、温もりを分け与えてくれるように何度も揉んでくれた。 『ゆきだるま、つくってたの』 『雪だるまって。お前1人でか?お手伝いさんとかどうしたんだよ』 『……みんな、たいがのしんぱい。たいが、かぜひいたから、そとであそべない。でも、ゆきだるまがみたいって、』 『だからお前1人で作ってるって言うのかよ』 コクリと頷けば、大きなため息を吐かれた。 そんなに悪いことだったのか、その時の僕には分からなかった。ただこの家では、弟の願いは絶対叶えないといけないことなのだ。 美しく可愛らしい弟。そんな弟の願いは、どんなに無理難題でも叶えなければならない。そう。兄である僕にも、その使命は課せられている。 誰も、僕のことを気にかけてくれないのは分かっている。お父さんも、お母さんも、お手伝いさんも皆、弟の方が大事だって言うのは分かっていた。 だからこそ、少しだけでいい。僕を見てほしくて、頑張るんだ。いつか、“大雅(たいが)のためにここまでしたの?すごい!”と褒めてもらうために。 『………よし!じゃあ雪だるま作り、俺も手伝ってやる』 『いいの?』 『いいぜ。雪だるま作ったら、ウメの花でも見に行こう。大羅(たいら)様はウメの花が好きだもんな』 ニカッと笑うその人の笑顔が好きで。 こんな僕でも気にしてくれる優しさが好きで。 誰よりも愛されたいと願った僕が、誰よりも愛した人だった。

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